11:異変
きれいに片付いた家。何もなかったかのようにいつもと変わらない。いつもと違うのはそこにおばあちゃんの姿がないことだけ。
そんな普通で異常な光景に何の言葉も発することができない。どういうこと?
昨日の光景が嘘のような状態。おばあちゃんも血の匂いも何もない。昨日のアレは夢だったの?それとも誰かが片付けた?何のために?そんなことばかり考えた。
「少なからず昨日の事が夢だった。なんて都合の良い話ではないみたいだな」
部屋を見てまわっていたウルフがそう答えた。ハッとしてウルフのそばに駆け寄る。彼が指差した所には微かに片づけきれていない血の跡があった。
「だとしたら誰がこんな事を?お母さんが生きててこれをしたのかな?」
淡い期待が膨らんだ。何故自分の家を片付けないでこっちだけ?とか。そんな事も考えたけどただ生きてる事を期待したかった。
「お前の母親だとしても、行方知らずなことには変わりねぇからな。」
それはそうなんだけど、と肩を落とすわたしを他所にふとウルフは扉の先をじっと見つめる。
「まあそんなことより、アレはお前のお友達か?」
そう扉から目を離さずに言う。その言葉に思わずわたしも同じ方を見る。何の変化もない扉。何のことだろう?と考えていると微かに足音が聞こえる。
小さくて聞き取りずらい。よく気付いたなと思いながらその音に耳を傾げる。
おそらく2人いる。控えめに歩く音と豪快に歩く音。足音を聞いているとふと母が戻ってきたんじゃないかって思った。
きっと昨日から入れ違いになっていたのだろう。やっと会える!
そう思って思わず扉に手をかける。待て!と珍しくウルフが声を荒げたけど今のわたしには届かなかった。
勢いよく開かれた扉の先にいたのはわたしの期待の人物ではなかった。
「だれ?」
そう小さく呟く。目の前には男が2人。正直良い人ではないと感じた。
大きく開いた扉の奥を見つめてふたりはニヤリ。と嫌な笑みを浮かべた。
「まさか本当にいるなんてな」
「あの情報屋なかなかヤリ手でしたね」
「ああ。なあ、お前だろ。裏の手配書にのってる狼男ってやつは」
男たちの言葉を聞いて、思わず後ろを振り返る。
無表情のままだけど今までと違う雰囲気をしているウルフが小さく舌打ちをした。
何がどうなっているのだ。次から次へと現れる変化に頭が追いつかなくなりそうだ。