10:帰宅
森を離れたのは時間でいうと一日もない。それでも町の賑やかさに比べると、とても静かで懐かしい感じた。
自然の匂い。いつもの慣れた道。どれもなにも変わらなくて錯覚してしまう。そんなわたしを現実に引き戻すのは隣を歩くウルフの存在。
相変わらずの無表情で淡々と歩くその姿がむしろ頼もしく感じる。
見慣れた家は相変わらずわたしの帰りを待っているかのようだった。すこし震えた手でドアノブに手をかける。期待してしまう。母がいつもと変わらずそこにいるのを。
ガチャと開いた先にはわたしの期待したものはなかった。どうしても落ち込んでしまう。その場にただ突っ立ってるだけのわたしをよそにウルフは家へ入っていく。
「こんな荒れてたか?」
その言葉にハッとした。よく見ると昨日わたしが汚くしてしまった時よりも荒らされているような気がする。わたしは母の部屋に急いで向かった。
母の部屋は特にひどいものだった。服はめちゃくちゃになってて、母が普段使っているものなど無くなっているものが多い。
だれがこんなことを・・・
唖然としているわたしを他所にウルフは部屋を見渡す。
・・・少しだけウルフが笑ったような気がした。けど目の錯覚だったのか瞬きをした後またいつもの無表情になっていた。
「おばあちゃんの所にも行っていい?」
しばらく家を調べたけど母の行方が分かるものは何もなかった。母の部屋から消えたもの、わたしの部屋から消えたものはあったけど、それが何か重要なものだとは思えない。
だとすればこのままここにいることよりおばあちゃんを先に埋葬してあげるべきだと思った。あのままの状態にしておくのはあまりにも可哀想だから。
ウルフは静かに玄関まで歩いていく。
返事はしなくとも合意してくれたんだろう。わたしは彼の後を追うように家を出た。
先ほどとは違う緊張感。心臓がバクバクと激しい音を立てる。おばあちゃんずっとそのままにしててごめんね。心で一生懸命謝罪する。キツく目を瞑り胸に手を当てる。頭の中で昨日の光景を思い出す。あの光景をまた見るというのは苦しい。けどおばあちゃんのためにも進まなきゃいけない。
前に進むための決意を固めようとしているとふと胸に当てていた手を掴まれる。びっくりしていると隣にいるウルフがわたしの手を握ってくれた。そのまま自然な流れで指を絡められる。その手の温かさに少しだけ緊張が和らいだ。
ウルフと手を繋いだままわたしは扉を開いた。
衝撃的なことというのは連続しておきるらしい。あまりの光景に驚きを通り越して思考が停止している。わたしの昨日みたものは幻覚だったのか?そんな事すら考えていた。
目の前に広がる光景は昨日の血の世界ではなくキレイなおばあちゃんの家の状態だった。




