1:プロローグ
物心がついた頃から少女は母とふたりだった。
家は森の中にあり物心がついたころから自然に囲まれた生活が当たり前だった。
町におりた事は今まで一度もなく人との関わりは母と祖母の二人だけ。そんな生活が少女にとっては当たり前でごく普通のことであった。
少女にとってこの森の中での暮らしはとても充実しており幸せに満ち溢れていた。
大好きな家族とゆったりとした時の中で日々を過ごす。
森の動物たちと遊んだり家の周辺を探索してみたり、そんな些細なことが少女にとっては幸福であった。
少女の住む森には人があまり近寄らない。
それは少女がこの森に住む前から町ではささやかれていた噂が原因である。
だがそんなことは少女の知る由もなく関係のないこと。
人との関わりを持つ機会もないので当然のことではある。
例え少女が噂を聞く機会があったとしてもそんなことは少女にとっては些細なことなのかもしれない。
自然の中で母や祖母や動物たちから愛されて育った少女にとって
この森は人々が恐れているような印象を抱くことも不安がることもなにもないからである。
祖母は一緒に暮らしていなかった。
少女の家から離れた場所でひとりで静かに生活している。
少女は以前祖母も一緒に暮らしたいと母に伝えたことがある。
しかし母はそれはできないと言った。
どうして?と聞いても母は優しく微笑むだけだった。
少女には理由が分からず、自分なりに考えてみたけれども答えはでない。
けど母や祖母がそうしないのは何か理由があっての事だという事は理解できた。
だからそれ以上なにも言わずに過ごしてきた。
母から許可をもらい時々祖母の家に遊び行きお泊まりすることは存外わくわくして楽しかったからだ。
そんな平穏で幸せの生活の中で、小さな変化が訪れる。
祖母が体調を崩し寝込んでしまったのだ。
少女はとても心配した。母におばあちゃんは大丈夫?会いに行って良い?と何度も聞いた。
おばあちゃんも歳だから風邪と腰を痛めちゃったのよ。
と母は言った。
そしてさらにこう続けた。
もう少しおばあちゃんが良くなったらおばあちゃんの大好きなアップルパイと赤ワインを届けに行ってくれないかしら
少女は嬉しそうに返事をした。
大好きな祖母に会える事、様子を見れる事が嬉しかったのだ。
いつになったらお見舞いに行けるだろうと指折り数えていた。
そんなある日ついに母からお見舞いを頼まれた。