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第41話 いろいろありがとね!

進吾から私たちに2枚の紙が裏返しに渡された。この紙には見覚えがあった。家からやりたいことノートを持ってくる時に、私がたまたま落としてしまったものによく似ていた。表にしてみると文字がびっしりと書いてあった。


「もしかしてお手紙?」

「うん。げんきなときにわたしたかったの」


目をそらし、照れくさそうにしながらも明るく答えた。手紙を見てみれば、自分で調べて書いたであろう、不恰好でガタガタと震えている漢字がある。必死に丁寧に書いたことが一目見て分かるような大きな字だった。そんな様子でこう綴られている。



ママへ


いつもご飯とか家事をやってくれてありがとう。一緒にゲームしたり、ご飯作ったり、おでかけしたの楽しかったよ。花火もきれいだったよ。運動会も走ってくれてありがとう。

あと、いろいろわがまま言ってごめんなさい。

パパとママの子どもでよかったよ。10年後も元気でわすれないでね。長生きしてね。

ありがとう


進吾より



読んでいて胸が締めつけられた。お別れが近づいてきてることを改めて実感した。読み終わった後、泣きながら進吾を抱き締めた。


「進吾のこと忘れるわけないじゃん」

「ほんと?よかったー」


進吾は明るく答えた。旦那も涙を堪えながら、笑ってこう言った。


「なんだー?"10年後は出世してますように"って」

「パパしゃちょうになるの」

「社長は無理だなー」

「めざせしゅっせ!」


"ははは"と笑いながら旦那はハンカチで目の辺りを拭いた。それを見て進吾が何かに気づいた。


「あ、そのハンカチぼくがあげたやつだ!」

「あー、そうだよ?ちゃんと使ってるよ。キーホルダーもね」


そう言ってキーホルダーをポケットから取り出して見せる。それを見て進吾は"へへん"と誇らしそうにしていた。



しばらくして落ち着いた後、進吾に聞いてみた。


「いつの間にこの手紙書いてたの?全然気づかなかったよ」

「しゅじゅつうけるまえにかいたの」


そう言われたので思い返してみた。すると確かにそんなことをしていた気がする。それは進吾が癌や余命を知った後のことだ。手術を受け終わり、私がコンビニに買い出しから戻ったときに、進吾は大慌てで紙と鉛筆を隠していたのを思い出した。おそらくこの時から準備していたのだろう。


「そっか。そんな前から準備してたんだね」

「うん!」


そこまで考えていたのかと、我が子ながら感心した。すると少し恥ずかしそうにして、進吾が話した。


「ノートからとったから、よこがビリビリだけど……」

「あー、だからノートの後ろのページが破れてたの?」


不思議に思っていたことがやっと分かった。それは病院で家族写真を撮った次の日のことだ。広げられていたノートを数ページめくったときに、不自然に切り離された跡見つけていた。


「バレたー?」

「どうりで変だなって思ったんだよ」


ただこれを聞いて疑問に思ったことがある。跡を見る限り、3枚切り取ったはずだ。私と旦那の手紙で2枚、あと1枚はどこにやったのだろうか。誰かに宛てた手紙なのか、はたまた単純に絵を描くために使ったのだろうか。それを聞こうと思ったときに、ちょうど進吾が口を開いた。


「パパ!ママ!」

「ん?どうした?」


私たちに笑顔を向けて言った。


「いろいろありがとね!」


それを聞いた私たちも進吾に微笑み返した。




数日後、医師から現在の進吾の状態と余命についての話をした。進吾の状態を詳しく話した上で、医者は余命を告げた。


「進吾さんが息を引き取られるのは、12月26日から27日にかけての夜だと思われます」

「分かりました……ありがとうございます」


お辞儀をして診察室を後にした。進吾の元に戻って、聞いた話を伝えようとした。


「進吾、お医者さんからお話聞いてきたんだけど……」


すると進吾は話を被せてそれを止めてきた。


「はなさなくていいから!」

「え、いいの?」

「うん!しりたくない」


進吾は頑なに聞こうとしなかった。私も旦那も想定外のことで驚いた。無理に聞かせるのも良くないと思い、進吾が知りたくなるまで教えないことにした。



時間が過ぎるのはあっという間で、気づけば12月20日、1週間後には進吾の命も尽きるところまで時間は進んでいた。進吾は寝ていることがほとんどで、起きていたとしても喋る力も限られていた。また、口から食べ物を食べるのも難しくなってきていた。そのため、点滴で体に栄養を

与えている状況だ。


「もうそろそろクリスマスか……」

「最近はずっと寝たきりだからな」


起きている時間よりも眠っている時間の方がはるかに多くなっていた。


「ケーキを買ってきても食べれないもんね」

「クリスマスプレゼントでなんかあげたらどうだ?おもちゃとかぬいぐるみとかさ」


旦那も何個か案を出してくれたが、どうも良いものは出てこなかった。


「でもこの様子じゃ遊べないと思う。近くにあって遊びたいのに、遊べないなんて可哀想だし……」

「それもそうだな……」


しばらく沈黙の時間が続いた。どうしたら良いのか2人で考えていた。そんな時にある記事を見つけた。"終末期を迎えた患者にアイスで水分補給"というタイトルだった。


「これなら良いんじゃない?!」


旦那も記事を読み、大きくうなずいた。



クリスマス当日、アイスを持って進吾のいる病室に行った。当然進吾はまだ眠っていた。無理に起こすことはせず、隣に座って起きることを信じて待っていた。


午後の7時半頃にやっと目を覚ました。窓の外はマンションなどの明かりが真っ暗な景色を照らしている。


「進吾起きたよ!おはよう」

「おぉ、おはよう」


聞こえるか聞こえないかの声量で必死に"おはよう"と口を動かした。


「今日はね、クリスマスなんだよ?」


進吾は目を大きくしたが、それでもほんの僅かに開いただけだ。


「これなら進吾も食べられるって」


アイスを用意した。小さく砕いて口に入れてあげた。口の中で溶けていき、ごくりと飲み込んだ。進吾は口を開き、目をキラキラさせてこちらを見つめてきた。


「どう?美味しい?アイス好きだもんね」


進吾は小さくうなずいた。旦那も隣でニコニコとしながらアイスを食べていた。


「クリスマス過ごせて良かったね。進吾頑張ってるよ」


頭を優しく撫でた。進吾は口まで運ばれたアイスを食べ、完食した。


「全部食べたのか!すげーな」


その言葉を聞いて進吾もニコっとする。食べ終わってもまだ元気そうだったので、一緒にクリスマスの曲を聞いた。私と旦那は音楽を聞きながら鼻歌を歌っていた。この時だけはほのぼのと温かい空気が流れていた気がする。


「クリスマスって感じするねー?」

「もうあっという間だな?」


進吾に向かって私たちはずっと話しかけていた。やがて進吾の瞼も重くなってきた。


「眠くなってきちゃった?」

「長い時間話してたもんな。そりゃそうか」


名残惜しいが、病院にいられる時間も限られてるため、進吾に一言声をかける。


「おやすみなさい」

「そうだな。おやすみ」


進吾はゆっくりと瞼を閉じた。

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