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王位継承式

 …………どういうことだ?まさか今、此処で?

そんな疑問が顔に出ていたのだろうか。エバが肩をすくめて言った。


「まさか。こんなところで継承式をするほど、無礼者になった覚えはないね」

【祈りの間】で行うに決まっているだろう?とエバが続ける。


 【祈りの間】。この国の中で最も女神に近い場所。真っ白な空間の中心に女神像が祀られているだけで、他に何もない。そもそもアルティリエン公爵家の者しか開けられないため、王位継承式のときくらいしか使用されず、その存在すら知らぬ者も少なくない。

 

 時計の針の音が、やけに部屋に響く。その時、ひかえめなノックがあった。「入れ」とエドモンドが言う。公爵に続いて入ってきたマーズィはひどい顔色をしていた。しかも目の下には濃い隈があり、お世辞にも体調が良好であるとは言い難い様子だ。

 

 誰も何も発さない。マーズィはこの部屋の一人ひとりを順に見る。臥せっている父、医者らしき格好をしている女性、ドア近くに立つシルフ、箱を抱える軽薄そうな青年、仮面を付けている当代公爵、部屋の奥に佇む気弱そうな男性と、やたら威厳のある青年。…………状況が読めない。国王が危篤なことは理解した。が、この部屋にいるうち半数近くの人間に見覚えがない。彼らは誰だ?まさか…………いやそのようなことが?何故、自分だけがこの場に呼ばれた?疑問が頭の中を廻る。マーズィは深呼吸をした。

 

「何故、私が呼ばれたのか。理由を訊いても良いですか」


 声こそ震えていなかったが、背中に隠れた右手が震えていたのがシルフには見えた。質問に答えたのは、エドモンドだった。


「見ての通り、今代の国王が危篤だ。しかし後継者を定めていなかった。権利はアルティリエン公爵家に譲渡された。我々は其方を、マーズィ・ル・ネイラ・ティリエを次代国王とすることを決定した」

 この後、王位継承式を行う。今代の王が存命のうちに済ませねばならない。という言葉はマーズィの耳に届かなかった。


「私が、王に…………?何故……」

「其方は建国神話の裏に気付くことができた。それが全てだ」

「私は…疑問に思って質問しただけです。気付くなんて、そんな」

「疑問に思える者がどれほど存在するか。今代の王の子は三人だが、疑問に思い調査をしたのは其方だけだ」


 そんな…と言った後、俯いて黙ってしまった。彼の髪が顔にかかって表情が読めない。少しして、マーズィが顔を上げた。その瞳には決意が映っている。背中に隠れた右手はやはり震えていて、しかしそれを左手でおさえていた。


「兄…………いえ、第一王子や第一王女ではなれないのですね。わかりました。私は何をすれば良いのでしょう?」


 エドモンドはうむ、と頷いた。

「王位継承式を行う。これから【祈りの間】に移動する」

「あの、王位継承式は国民の前で、王城の大広間で行うものでは…」

「違うな。それは国民に向けての披露目だ。其方がこれからするのは…………ふむ。”女神アルティリエンへの宣誓”、とでも言おうか。まぁ行けばわかる」


 そう言ってさっさと移動してしまったエドモンドを追いかけるようにして、五代目と今代国王を残し、部屋を後にした。



























「私が言うことを繰り返せば良い。女神像から声が聞こえたら指輪をはめて、終了だ。わかったか?」

「わかりました」


 マーズィは今、エバに手伝ってもらいマントを身に着けている。あの布はマントだったのか、とシルフはひとり納得した。指輪は代々の国王が付けるものだ。銀製で繊細な細工が施されている。


「良いか」

「はい」


 この儀式が終わったら、15歳の国王が誕生する。


 マーズィが女神像の前に跪いた。


「我は王を受け継ぎし者なり」

『…我は王を受け継ぎしものなり』

「女神アルティリエンに、マーズィ・ル・ネイラ・ティリエが宣誓する」

『女神アルティリエンに、マーズィ・ル・ネイラ・ティリエが宣誓する』

「『身を粉にし、国のため、民のため、尽力することを』」


 言い終えたその時、女神像のティアラの宝石が目の眩むような光を放った。【祈りの間】がにわかにざわめく。遠くからは地鳴りのような音が聞こえ、シルフには何が起きているのかさっぱりわからなかった。


 体感ではとても長く思えたそれは、実際には5分にも満たなかったのではないかと後になって思う。


 光と音が収まった。マーズィは指輪を震える手ではめた。一応、声は聞こえたらしい。エドモンドもこのようなことは初めてだったようで、何やら考え込んでいた。


「あのさー、儀式は終わったんだよね?とりあえず移動しない?」


 エバがドアを指して言った。エドモンドは先に行く、と言い残し何処かへ行ってしまった。先代たちもそれに続く。マーズィが全く動こうとしないので、エバは「失礼しますよーっと」と言いながらマントを剝ぎ取った。

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