心ここに在らず
様々な季節が混在しているような温室の中に、2人はいた。
「ボクたち一族は、まるで消耗品みたいだ」
ーーー何を
「人間に怪しまれないよう、時が過ぎれば新しく創られるんだ。女神の箱庭の番人として」
ーーー違う、僕は、君は…………
「馬鹿げていると思わないかい?…シルフ」
「エバ!」
伸ばした手は空を切った。シルフは茫然としている。呼吸が荒い。これは夢だ、と気づき深いため息をつく。
懐かしい夢を見た、あれは何歳の時だっただろうか。きっと、昨日のせいで思い出したのだろう。
シルフはそう結論付けた。ふと時計を見ると、長針はちょうど5をつついていた。いつもよりだいぶ早いけれど、二度寝するには遅すぎる。
あぁ、喉が渇いた。
「…………フ、………ルフ、…………シルフ?」
シルフはハッとした。先ほどまで全員が揃っていた生徒会室には、シルフとスイしかいない。
「スイ?……あれ、会議は」
「もうとっくに終わったよ?決めるべきことは全て決まった。まぁと言っても、私たち会計は学院祭が終わってからが本番みたいなものだけどねー………って、話聞いてる?」
「……え?あ、うん。聞いているよ」
いつもよりぼんやりとしたシルフに、スイは怪訝な顔をする。
「シルフ、言いたくないならいいんだけどさ、何かあった?」
え、と掠れた声を漏らす。いつも通りにできていると思っていた。
「なんていうかな……いつもよりぼんやり?してるっていうか…心ここに在らず、っていうのかな。なんかそんな感じがする」
「あ、はは…………」
笑って誤魔化そうにも、それを許す人間ではないことはシルフ自身よくわかっている。どうしたものか。
「何もなかった、とは言えないけれど、スイ達に話せる内容ではないんだ。その…すまない」
「いいよ別に。王族案件とかでしょ?なんとなく予想はついてた。で、達…って?」
スイが眉をひそめた。シルフは扉に目を向ける。スイが扉を開けた先には、
「フィルア?」
「おぉ…やっほー?」
フィルアは見るからに焦っていた。やべぇ、と顔に書いてある。
「あー、その…一緒に帰ろうと思って待ってたんだ。こっちに来る途中で副会長を見かけたから、終わったんだなーって、思って…………」
「あぁ、そういうこと」
「その…………悪い!立ち聞きするつもりなんてなかったんだ!」
生徒会室は沈黙に包まれる。スイとシルフは目を瞬き、一拍おいて顔を見合わせて、同時に笑った。
「何で笑うんだよ?!」
「ふっ…くくっ……いいよ別に。聞かれて困る話でもないからね」
「う…っはは…………うん」
あまりにも必死な様子が、さらに笑いを誘う。律儀な彼は申し訳なさそうにするけれど、シルフたちは盗み聞きだなんて思ってもいない。それに本当にしていたとしても彼ならば気にしない。そう言えるだけの絆が、これまでの積み重ねがあるから。
ひとしきり笑った後、シルフが言った。
「帰ろうか」