建国神話の謎
シルフは目を瞬かせた後、目を伏せた。シルフは悟った。マーズィは全てを理解している。
「難しい質問だ。何かであることを証明することは、そうでないことを証明するよりも何倍も難しい…………マーズィ、君は確か魔術科志望だったね」
シルフは目を細めた。マーズィは不思議そうに頷いた。話の流れが読めない。
「僕たち一族には、魔力がある。心臓もある。感情も……そして怪我をすれば赤い血が流れ、時には涙も流す」
「存じています」
「それは君たちと同じことではないかな。にもかかわらず、僕たちが人間でないと思ったのは、なぜ?」
マーズィは膝の上の拳を固く握りしめた。ここからが本題だとでも言うように。……内容が内容だ。とても言い難いであろう。シルフは、マーズィがこのまま引き下がることを望んだ。
それでもマーズィは、選んだ。選んでしまった。マーズィは、深く息を吸った。
「…私が最初に疑問を持ったのは、建国神話です」
女神様はこうおっしゃいました。
『この国を守るために、公爵家に加護を与えよう。人間として、王族を守るために』
私はまず、この文章に疑問を持ちました。この文章以外に、建国神話で公爵家の存在は語られていません。一体なぜ、公爵家に加護を与えることにしたのでしょうか。王族を守るという点に関しては、近衛騎士団の方が適任です。王国の歴史書から、神話時代にも近衛騎士団と同じような役割を持つ者たちが存在したことは確認できます。公爵家が代々騎士を排出している家系ならば納得はできましたが、そうではありませんでした。そして、公爵家は、女神様が降臨するまでは存在すらしていなかった。
また、わざわざ『人間として』と言ったところも気になります。王国に存在している者は、言うまでもなく、女神様以外は紛れもない人間です。ならばなぜそう言ったのか……。私は、女神である自身の代わりに、という意味だと考えました。女神である自分も眷属も、人間界では永く居られない。けれど、それでも愛した人間の子の子孫を護りたい。………そう、考えてしまったのではないか、と。
………………この2点から、公爵家と…いえ。公爵家の中でも最も長い歴史を持つ、アルティリエン公爵家と女神様に、何が深い関わりがあることは、容易に推測できました。
そして、次に疑問を持ったのは、家名です。他国の王族や皇族の方々は、家名が国名になっていることがほとんどです。此処、アルティリエン王国を除いて。加えて、国名を家名として名乗っているのは、王族ではなく、筆頭公爵家。理由を調べましたが、過去の文献や歴史書、手記にすら記載はなく、父上なら…国王ならば知っているのではないか、と。尋ねたところ、父上は…………
「僕に聞け。そう、言ったのでしょう?」