会議は踊る、そして少し進む
コンコンコン、とやにわに生徒会室の扉がノックされた。役員同士で顔を見合わせ、会長が返事をする。
「どうぞ」
先程まで学院祭について盛り上がっていたのが嘘のように、生徒会室内は静まりかえった。
「そろそろ最終帰寮時刻です。寮長には一応伝えておきましたが、あまり遅くならないようにしてください。では」
開いた扉から顔を出したのは、生徒会執行部顧問のケイン先生だ。いつも通りの無表情で、言うことは言った、というような様子ですぐにその場を去っていった。我に返った会長が慌てて時計を見ると、先程見た時よりも2周分進んでいた。
「えぇと、ひとまず本日の会議はここまでとします。何か質問がある方はわたくしリズベットか、副会長マーズィに、帰寮後にお願いいたします。まだ決定していない部分に関しては、明日の放課後に再度話し合いをしたく存じます」
そこで言葉を切り、役員を見まわす。
「今年度は、例年以上に大変になるかと思いますが、皆で力を合わせて頑張りましょう。以上で解散とします。遅くまでお時間いただき、本当にありがとうございました」
ありがとうございましたー、失礼します、という声が上がり、役員はぽつぽつと帰っていく。最後の感謝の言葉は、謝ることが許されない王族なりの謝罪だろう。
会議も終わったことだし、スイと帰ろうと思いあたりを見るが見当たらない。シルフは首を傾げた。
「ねぇマーズィ、スイ知らない?もう帰ってしまったかな」
「あぁ、スイはお手洗いに行きましたよ。荷物はありますし、もうじき戻ってくるかと」
「ありがとう」
いえいえ、と微笑みマーズィは去っていった。少し待つと、彼の言葉通りスイが戻ってきた。
「あれ、シルフしかいないの?他のみんなは?」
「もう帰ったよ。あとは僕たちだけだ」
スイは目を丸くした。
「みんな帰るの早いねー。あ、待たせちゃってごめん」
「大丈夫だ。もう行けるかい?」
「うん」
生徒会室の鍵を閉め、寮に向かう。
「鍵は明日にでも、会長に渡せばいいか」
「そもそも事務室閉まってそう」
「確かに」
校舎を出ると、雨が多いこの時期には珍しく、満天の星空が広がっていた。
「しかしさぁ、今年の会長は大変そうだねー。第1王女としての公務をこなしつつ成績も上位キープ、そんで会長としての仕事。信じらんない、本当に人間?」
スイは茶化して言うが、会長の身を案じていることは明らかだ。
「人間であることは間違いないけれど。…あの人はひとりで抱え込むきらいがあるから、少し心配だ」
「だよねぇ。特に今年は第2王子が入学したから、警備も強化しなきゃだし、来賓対応もあるでしょ?」
「あぁ、他国からもいらっしゃるそうだしな」
「うわぁ…………胃に穴があきそうだね」
ふと、シルフは空を見上げ、呟く。
「マーズィも副会長としてしっかり仕事してくれているし、頼ってくれたらいいのだが……」
「それができてたら私もシルフも心配してないって」
「そうだよなぁ…」
男子寮を目前にして、スイが突然立ち止まり、こちらを振り返る。
「ねぇ……」
「何?どうかした?」
スイは寮に目をやる。
「あそこにいるのって、副会長じゃ…………?」
言われて見ると、確かに男子寮の扉の前に、副会長が佇んでいた。