第三話 4月16日
森での生活も慣れてきた。御前や翔のお陰でなんとか生活できている。というか、僕は何のやくにも立ってないような…。
「今日は何をするのだ?」
『今日は薬草を摘みに行こうと思って』
『それなら、崖の上がいい。』
「案内をするのじゃ」
三人で話しながら崖のの上についたかと思えば、一面のラベンダー畑に小さな人影が見えた。
『子供?山奥に?』
翔は少し困惑していた。そうだ彼は子供が苦手なんだった。しかし、そんなことを考えているうちに僕はわかってしまった、小さな子供がこんな山奥の崖に一人で立っている理由を。気付いたときには、その子はフラフラと崖の側面に近づいて行っている。
『御前急いで!あの子のもとに!あの子が飛び降りる前に!』
「!」
言い終わるや否や御前は全速力で駆け出していた。間一髪。ギリギリのタイミングで少女は腕の中にいた。御前が走り出すのが少しでも遅ければ彼女はもう…。
「死なせてよ」
腕の中で少女は泣いていた。自分の善意が彼女にとっての幸せでないこともある。でも、眼の前の命が失われるのを見過ごすことは僕にはできなかった。
少しして、目を真っ赤に腫らしながら震える声で少女は言った。
「人間の形をしたなにかが、むらを襲ったの。それで……お父さんも…お母さんも……お姉ちゃんも、た、食べられて…お母さんは押し入れに入ってなさいって…私だけ逃がしたの。」
衝撃的だった。この近くの里に人食いの化け物がいる。恐怖と憤りが湧いてくるのがわかった。
その感情をなんとか抑え、少女に
「君の名前は?」
と聞いた。
「朱希。」
「朱希、僕もこの間家族をなくしたんだ、火災だったけど。」
朱希は顔を上げた。
「何故か僕だけが助かった。悔しかったし、死にたくもなった。」
朱希は悲しそうに、少しうつむいた。
「でも。母さんが生前言ってたことを思い出したんだ。」
『もし、耐えられないような悲劇があったとしても、自分のの人生の1ページだと笑える日がきっと来るわ。』
「綺麗事だね。」
朱希は冷たくあしらった。
「そうだ。綺麗事なんだよ。でもその綺麗事の意味が今ではわかる。だって証拠に僕は今、あの夢みたいな超近代都市、トウキョウで暮らすよりも、とても素晴らしい人生を送っているよ。それこそ、火事をきっかけだったって言えるくらいね。」
「……。」
「トラウマに耐える必要はないけど、もしこの意味がわからないならもう少し生きてもいいと思うよ。死ぬことはいつでもできるけど、生きることは今しかできないからね。」
朱希は少し考えてから、こういった。
「じゃあ、私はどこに行けばいいの?」
「一緒に来るか?」
朱希は顔を上げた。
「どうせ宛のない旅だ。ひとでがあるほうが。」
「ついてくるか?」
朱希は強く縦に首を振った。