EP5-8 - 不穏な影がすぐそこに
「わー、すごいですねー」
「意外に綺麗な文字で書くんだね……」
「意外とはなんじゃ。ハジメといいお主といい、皆ワシのことをどう思っていたのじゃ」
周囲からの散々な言われように対して、リーバは口をとがらせて拗ねた様子を見せる。そんな彼女から資料を受け取り、フィニティは食い入るようにその紙を見つめていた。
古代遺跡展覧会。その名の通り最近発見された遺跡の中から発掘された数々の遺物を展示している催しだ。どうやら展示品のほとんどは年代がはっきりしていない物であり、これらは未だ解明されていないユニヴァース・ロストの時代のものではないかと資料の概要に記載されている。
「……って、本当に古代のものかどうかははっきりしていないの?」
フィニティが熱心に資料を読み込んでいる中、エリーが上から覗き込むように同じものを見て正直な感想を漏らした。
「うむ。記載されている文字らしきものが古代魔法の解析に使われている古文書と似ている、という理由で古代のものと判断されたらしいの」
「眉唾なんじゃ?」
「仮にも国立の博物館の催しじゃぞ? そんな根拠のない物を展示するわけがなかろうて」
「ふうん」
隣で行われている会話には全く耳を傾けず、フィニティは目の前の紙をじっと見つめていた。先ほどまでは資料の隅から隅まであらゆる部分を確認していた彼女だが、今はある一点に視線が集中している。
「あの、この謎の球体って……」
「ん。確か古代文字が刻まれていた玉じゃな」
「何て書かれていたんですか?」
「そこまではわからんよ。古代文字が読めるのはフィニティくらいじゃからのー」
「……そうですか」
資料の説明の中にも、発掘された中でも特に用途が不明な物だと書かれている。リーバの補足事項には可能性として古代魔法の詠唱文が書かれているのではないかと書かれているが、それならば他の魔法と同じように本になって残されている可能性が高い。
そんな球体が何故ここまで気になるのか。フィニティ自身、その理由がわからなかった。資料に描かれているのは何のことはないただの白い玉のイラストだ。なのにそれを見ているだけで心がざわざわとして気持ちが悪くなる。
「どうしたのフィニティ?」
「何でもないです。……すみません。今日は休ませてください」
「……うん。そうしよっか」
フィニティが何か悩んでいる。そのことには気が付いたエリーだが、それが何かまではわからなかった。当然だろう、フィニティ自身が気が付いていないのだから。
ともかく、体調不良を起こした彼女自身が寮に戻りたいと言っているのだ。友人としてできることがあるとすれば、彼女を連れて帰って休ませることくらいだろう。フィニティはリーバから資料を預かり、エリーと共に寮へと戻っていくのであった。
お盆休みは平日の疲れを取るだけで終わってしまいました。




