EP5-7 - 意外と気に入っていたりして
「さて、フィニティも目を覚ましたことじゃし、もう一度博物館の方へ向かうかえ?」
「また向かうのか?」
先ほど一通り博物館を見学したはずのリーバがそう言うので、ハジメは少々驚いた様子を見せた。
「お前隅々まで見ていたじゃないか。これ以上何を見るというんだ?」
「何を言っとる。そこの二人だけ仲間外れというのも気分が悪いじゃろ」
「ほー、意外とそういう配慮はできるんだな」
「意外とは酷い言い種じゃのー。ワシは口調以外真っ当な人間じゃて」
「魔女を名乗る人間は真っ当なのか?」
「さてのー。ワシはワシ以外が魔女を名乗っていたら警戒すると思うがの」
軽口を叩き合うハジメとリーバ。その二人を見ながらエリーは自分自身に対して驚いていた。まさか、リーバの意見に対して自分が賛同するとは思っていなかったからだ。
先ほどリーバは『自分は口調以外真っ当な人間だ』と言っていた。初めて出会った時こそ常識はずれな変人だと思っていたものの、フィニティと一緒に古代魔法研究会に入り浸っている今ならわかる。彼女は口調や振る舞いこそ常人のそれとは異なるものの、中身の人間性は割とまともなのだ。確かに嘘はつくし、やたらと人を揶揄うし、話をするときはいつもテキトーではある。しかし人並みに周りの人間を気遣ったり、物事を冷静に判断することができる。いつの間にか自分の中でリーバへの信頼が高まっているということ、その事実に気づき、エリーは自分自身に驚いていた。
「それで、どうだい二人は」
「あ、えーと」
「すみません。やっぱりまだ本調子じゃなくて」
センの質問に対し、そう答えたフィニティの顔色は健康そのものだ。声色もいつもと同じように元気なものであり、エリーの目には彼女の体調が治っているように見えた。もしかして彼女が博物館に行こうとしないのは別の理由があるのではないだろうか。そう考えるエリーであったが、倒れた本人が本調子じゃないと答えた以上、あまり深く詮索しない方が良さそうだ。もしも彼女が改めて博物館に行きたいと言い出したらその時は付き合ってあげよう。
「安心して、フィニティ。展覧会の中で入場者用に配っていた資料をリーバがもらっていたから後で解説してもらえばいい」
「そんなのがあったんですか?」
「うん。メモも取っていたから詳しい内容を知れると思うよ」
「ま、これくらいは古代魔法研究会の会長として当然のことじゃて」
そう言うとリーバは説明資料とやらを取り出し、ひらひらとフィニティに見せびらかす。揺れる紙の中には、これまた意外にも綺麗な文字でびっしりとメモが記載されていた。




