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EP2-1 - 降り始める二人

「……抜かった」


 フィニティの意思を聞いてから一晩が立った朝のこと。センとフィニティは街へ向かうため、簡単に準備を済ませて山を下りようとしていた。

 フィニティは祖父母向けに書置きを残し、衣服と薬草を鞄に詰めた。どうやら特に思い入れのある物はないらしく、部屋にある本や家具は全てそのままにしていくらしい。センはといえば、生徒のための薬草の量が十分であることだけを確認した。彼は彼で、軽装の状態で山を探索していたので持ち物が少なかったのだ。

 さて、そんな二人が何を失敗したのかというと。


「よくよく考えたら、この小屋がどこにあるのか把握していなかったな……」


 そう、この場所はセンが気絶している間にフィニティが運んだ山小屋。進んだ方向を覚えていないこともあり、街がどの方向にあるのかを把握していなかったのである。これではせっかく持っている地図も磁石も役に立たない。

 この疑問が浮かんだ当初はフィニティに山の麓までの道を教えてもらおうかと思ったが、山から出たことのない彼女は麓までの道筋など知っていなかった。一体どうしたものかと悩んでいたところ、フィニティがバシッと手を挙げる。


「そうだ。山の麓はわかりませんけど、あなたが倒れた場所までなら案内できますよ!」

「なるほど、それで頼むよフィニティ!」


 センは自分が倒れるまで、方角を確認しながら山を登っていた。つまり彼が倒れた場所までわかれば街まで降りることだって可能なはずだ。そう考えた二人は、センが倒れていた現場まで歩き始めた。フィニティの話によると一時間ほどでたどり着く場所らしい。


「ということは、君は僕を一時間担いであの小屋まで運んだのか?」


 道中、センは疑問に思ったことをフィニティに問いかけた。自分より二回り、いや三回りは小さな彼女が自分を担いだとは考えにくい。だがそうなると、どうやって彼女は自分を小屋まで運んだのだろうか。


「あはは。いくらあたしが山育ちで力に自信があるって言っても、そこまで力持ちじゃないですよ」

「なら、どうやって?」

「魔法を使って浮かせたんですよ。そうすれば楽でしょう?」

「……なるほど?」


 彼女が言ったことは、風の魔法を使ってセンの体を持ち上げて運んだということだろう。その魔法自体はセンも知っているし、なんなら風を生み出して物質を移動させることは魔法の基本中の基本だ。魔法学校に入学していない人間であっても、物を浮かせることくらいはできるであろう。

 しかし、物を浮かせたまま物を運ぶとなると話は別だ。重いものをただ一瞬だけ持ち上げることと、それを持ったまま運ぶことでは必要な筋力が異なるように、必要な魔力量は大きく異なる。今回のように一時間ほど歩かなければならない場所まで風の魔法を使うとなると、それなりの魔力が必要となる。つまり彼女は、その小さな体には似合わないほどの強大な魔法力を秘めている、ということで間違いないだろう。

 単純に彼女の魔臓が丈夫なのか。それとも……。

 昨晩に邪推したことが頭をよぎるセンであったが、この場で考えても答えが出るわけでもない。一度疑問を胸に秘め、彼は目的の場所まで足を進めるのだった。

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