表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
フィニティ・フレインは山を下りて何を思うのか  作者: 鳥羽 こたつ
エピソード4.5

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

89/233

EP4.5-2 - 注射はイヤだってば

「なるほど。ワクチン接種か」


 落ち着きを取り戻したエリー達から話を聞くことができたハジメは、事の詳細に納得の意を示した。


「そう。私たちが子供のころ接種したワクチンがあったでしょ」

「確かにそんなような話を親父から聞いたことがあるな」

「フィニティはそれを受けていないの。だから今からでもそのワクチンを接種する必要があるんだけど」

「人に針を刺して無事なわけがないです。だからイヤです」

「……と、こんな感じなの」


 観念したのか暴れる様子は見せないものの、フィニティはエリーに抱きかかえられながら抵抗の言葉を口にしていた。このままでは解放された瞬間にまた逃げ出すかもしれない。そんな少女の姿を見て、ハジメは愉快そうに笑いだした。


「何が面白いの?」

「いやぁ、弟たちのことを思い出してな。あいつらもワクチン接種の時は必死に抵抗したものだ」

「貴方、弟がいるの?」

「ん、言ってなかったか? 俺は五人家族の長男なんだ。始めに生まれたからハジメだ」

「そ、そうなの」


 由来を聞くと実に安直だと思ってしまった。そんな失礼を心の中で謝りながら、エリーはせっかくだからとその話の続きを求める。


「その時はどうしたの?」

「その時って、どれだ?」

「弟さんたちが抵抗した時。まさか、ワクチンを打たずに終わらせたってわけじゃないでしょ?」

「あぁ。そういうことか」


 ハジメは過去の出来事を思い出し、再び笑い声を上げた。どうやらその記憶は彼にとって余程楽しいことだったらしい。


「実に単純な話だよ。我慢して注射を受けたら、親父が飴玉をくれるって言ったら素直に聞いてくれたよ」

「飴玉?」

「チビたちの好物なんだよ。ま、褒美があれば素直にこっちの意図に乗ってくれるってことだ」

「褒美……」


 エリーはフィニティを抱きかかえながら眉を顰め、何か彼女の気を惹くものはないかを考え始めた。数秒の沈黙の後、エリーは自らの手の中にいる少女へ作った笑顔で語りかける。


「ねぇ、フィニティ」

「……なんですか」

「貴方この前、シャータからもらったアイスキャンディーが美味しかったって言ってたよね?」


 そういえば今購買部では、新商品のミルクアイスキャンディーが売れていると聞いたことがある。水の季節()が近づいていて肌寒くなってきたというのに、周りの考えていることはよくわからん。そう思っていたハジメであった。


「大人しく注射を受けてくれたら、アレ買ってあげる」

「……!」


 フィニティは一瞬目を輝かせるものの、そう簡単に言いなりにはなるまいと、すぐにその輝きを瞳の奥底に隠そうとした。尤も口元が緩んでいるため、彼女の思いはバレバレであったが。


「そ、そうはいきませんよ。約束は破られるものだってリーバさんが言ってました」


 あの魔女、余計なことをフィニティに吹き込んで……。エリーは内心リーバに対して怒りの炎を燃やすものの、一旦今はその炎を消すように試みた。


「……じゃあ、二本買ってあげる」

「え」

「注射する前に一本。受けた後に一本。それならフィニティも納得できるでしょ」

「は、はい! やったっ」


 先ほどまで抵抗の意はどこへやら。フィニティはまるで従順な少女になると、大人しくエリーに連行されていくのであった。

 その様子を見届けてハジメは、誰にも聞こえない声量でボソッと呟く。


「あいつら、血も繋がっていないのに姉妹みたいだよなぁ」

短めエピソードなのでこれにて終了です。

次回更新は今度こそ日曜を想定しております。よろしくお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ