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フィニティ・フレインは山を下りて何を思うのか  作者: 鳥羽 こたつ
エピソード4

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EP4-39 - 誰が彼女を欲しがるのか

「さて理事長の娘よ。ちょっといいかの?」


 センが一度対策を考えたことで、実験室で起きた事件については一度幕を下ろした。そうして生徒たちが解散して各々の生活に戻る中、エリーはただ一人魔女リーバに呼び止められる。


「……何?」


 これまでリーバと話して、まともな話がほとんどなかったエリーは露骨に嫌そうな顔をしていた。


「やれやれ、最初からそう嫌そうな顔をするでないわ」

「これまでの貴方の振る舞いを考えると仕方のないことだと思うけど?」

「それは別問題じゃ。ワシのこの真剣な瞳を見んか。こればっかりは真面目な話じゃぞ?」

「じーっ」

「これ、わざとらしく口に出すでないわ」


 態々口に出すほど念入りにリーバの瞳を見つめるエリー。確かに、その瞳の中に彼女がこれまで幾度となく見せていたおちゃらけた様子は見えなかった。

 エリーは人の感情を見破る能力に関しては秀でていた。それは彼女に接触する人物のほとんどが、父親であるスーン・サーベスと関わりを持つことが本来の目的であることが関係している。目的の人物の娘であるエリーの気を損ねないよう、彼女に接触する人物は気持ちが悪いくらいエリーのことを褒め称えることが多かった。そんな嘘のお世辞を浴びせられ続けたエリーは、いつの間にか相手がどういった感情で自分と接しているのかを大体察することができるようになっていた。


「本題に移るが、お主、嬢のことをどう思っておる?」


 そんな彼女の過去など全く興味のないリーバは、エリーが自分を信用してくれたと思い、話を切り出す。


「嬢って……」

「勿論お主が保護者を務めているフィニティのことじゃよ」

「保護者じゃあないけど。……フィニティにはその、色々感謝もしていて」

「あーそういう学生っぽい甘酸っぱいものは求めておらんのじゃよ」


 エリーは自分の言い分をバッサリと切られ、ムッとした顔を表に出した。どう思っているか聞かれたから答えただけなのにその態度は何だ。やはり付き合うべきではなかったとエリーがその場を離れようとしたとき、再びリーバが口を開く。


「フィニティはこの学校、いや、この世界で唯一自由に古代魔法を使えておる。そう言っても過言ではないじゃろう」

「……それが?」


 どうやら彼女が話したいことはフィニティについてのようだ。自分のことであれば無視しようと思ったが、フィニティについてのことならば聞きざるを得ない。自分を助けてくれた彼女の味方でありたいとエリーは思っていたからだ。


「ご存じの通り、古代魔法は国が勢力を上げて研究している分野の一つじゃ」

「うん」

「その全貌どころか、読み方一つで爺さん婆さんが年甲斐もなく大声を出して議論しあう分野じゃて」

「まぁ、そうかもね」

「その答えを持っている唯一の人物……。そんな彼女の存在が知られたらどうなると思う?」

「どうって……」


 そりゃあ、研究会にでも呼ばれて研究に付き合わされるのではないだろうか。古文書を解いたりすれば、それだけ大きな功績を残したとして後世に名を残したりするのだろう。名誉なことではなかろうか。

 そう言ってみたものの、リーバはがっかりした様子で溜息を吐く。言いたいことがあるのならばはっきり言ってくれないだろうか。


「そう上手くいけばいいんじゃがのー」

「どういうこと?」

「研究会だけでも様々な種類があるじゃろ。それに、古代魔法がわかれば現代魔法についても応用が利くかもしれん。そうなると彼女の知識を欲しがる人物は一人二人ではなくなるじゃろうて」

「……」


 確かに、純粋に古代魔法を知りたいと思う人以外にも、生活を豊かにしたいと思う人だって古代魔法のいいところを知りたいと思うかもしれない。自分が思っていたよりも、フィニティが持つ知識の価値というものは高そうだ。


「そして公的な機関だけでなく、金儲けの手段として欲しがる人物もおるじゃろうな」

「お金?」

「純粋に珍しい呪文として見世物にもできるじゃろ。あのプリチーな見た目じゃし、曲芸団のマスコットとしても人気が出そうじゃのー」

「そんなの認めるわけには」

「お主がいかんといっても、ルールが通用しない人間だっているということじゃ。わかるじゃろ?」

「それは、そうだけど」


 人間社会の中では、自分の考えていることが通用しないことの方が多い。人を傷つけてはいけない。そんな当たり前だって守れない人がいるのだ。例の黒コートの人物のように。そんな悪意を持つ人物にフィニティが狙われたら、自分では想像もつかないような酷いことをされてしまうかもしれない。それだけは絶対に防がなくてはならない。


「さて、そろそろワシの言いたいことがわかるかの?」

「フィニティを守れ。そういうことでしょ」

「うむ。共に彼女を守っていこうぞ」

「わかった。……って、共に?」


 リーバも彼女の味方の立場に立つということだろうか。それはありがたいが、そんな話は初耳だ。そう思っていたエリーの前に、リーバは一枚の紙を突き出した。


「……入会希望届?」

「先ほどフィニティに書いてもらったのじゃ」

「古代魔法研究会……ってあんたのクラブじゃん!」


 しかもフィニティに書いてもらったというが、どう見ても筆跡が彼女のものではない。よく考えれば彼女は今現代で使われている文字の読み書きができないのだから、彼女にこの書類を書けるわけがない。


「いやーこれから楽しくなりそうじゃのー」

「ちょっと! こんなの本人の同意がないじゃん。無効だよ!」

「本人の希望は貰っておるぞよ。まぁ、詳細はわかっていなさそうだったがの」

「騙してるってことじゃん!」

「まーまー落ち着け理事長の娘よ。彼女の味方は一人でも多い方が良いじゃろ?」


 それはその通りだ。だが、こんな人を騙すような人物をフィニティの周りにおいて悪影響が起きないだろうか。

 今後の彼女の学校生活がどうなるのか不安だ。エリーはその不安と一緒に、自らの頭を抱えるのであった。

長くなりましたがエピソード4は終了です。

次回更新は来週日曜を想定しておりますが、用意ができたら早めに投稿します。

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