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フィニティ・フレインは山を下りて何を思うのか  作者: 鳥羽 こたつ
エピソード4

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EP4-36 - 思い当たる思い出

 魔法石から水が放たれた水は黒いコートを着用した人物の姿を形作る。その不思議な現象を目の当たりにした一同は、目を丸くして目の前に現れた人形を見つめていた。


「な、何。誰なんだこれ?」


 その中で一層困惑していたのはセンだ。つい先ほど合流したばかりの彼はフィニティが古代魔法を扱えることも、この黒いコートの人物が事件に関わっていることも、何も知らないのだ。そこでエリーはセンに対して、これまでここの実験室で起きた一連の出来事を伝えることにした。情報量の多いイベントにセンは様々な反応を示したものの、最終的には穏やかな様子でフィニティを見ていた。


「つまりフィニティは古代語が読めて、古代魔法が使えるということか」

「信じるんですか?」

「思い当たる節があるからね。フィニティ、覚えているかい?」


 何を? という表情でフィニティはセンを見つめる。


「初めて出会った時、僕は古い薬学書を持っていたよな」

「そういえばそうでしたね」


 センはその時、足を怪我した女生徒のためにヤクノシュ山へと向かい、薬草を摘んでこようと動いていた。そこで怪我をしてフィニティと出会い、彼女は今この学校に通っている。


「あの時、君は本の内容を見て薬草を持って来ただろう」

「あー。そんな気がします」

「最初は山で育っているから、山の中にある薬草から候補を選んで持って来たのかと思ってたんだ。でも、古代語を読めるなら辻褄は合うよな」


 センがその時持っていた薬学書はとても古く、セン自体も全て内容を把握していたわけではなかった。しかし、フィニティはその中でセンが探していたヤクノシュ山にのみ生えている薬草をピンポイントで持って来たのだ。彼女が本の内容がわかるのであれば、その出来事にも納得がいく。


「それに、今でも覚えているんだ。君が治癒魔法を扱えると言ったこと」

「……は?」

「言いました」

「あれも君が失われた技術を持っていると考えれば……」

「ちょ、待ってください。初耳ですよ」


 治癒魔法。それはこの世界に存在しない魔法だ。言葉の通り人や動物などの生物を治癒する魔法であり、病気や怪我、死さえも治す魔法だと定義されている。古来より多くの魔法使いが治癒魔法を探して研究を続けているが、未だその魔法の存在は証明されておらず、奇跡が許される御伽話の中にのみ存在していた。

 そんな治癒魔法をフィニティは一度使ったことがある。エリーが倒れた時だ。しかしその時周りに人がおらず、エリー自身も気を失っていたため、魔法を使うその瞬間を誰も見ていない。よって、フィニティが生と死の価値観を破壊しかねないその魔法を使う瞬間を見た者は誰もいなかった。


「え、フィニティ。治癒魔法を使えるの?」

「はい。できますよ」

「じゃあちょっと見せて。信じられない」

「疲れるから嫌です。それに、誰も怪我をしていないじゃないですか」

「はは、懐かしいな。前に同じことを言われたよ」


 和やかに笑うセン。彼はあの時フィニティに怒られたことを思い出していた。

 そうしてセンはフィニティが特別であることに対し、思い当たる点を様々挙げ出した。そんな中、話を遮るかのように一人の男が発言する。


「盛り上がっているところ、ちょっといいか?」

「あ、ハジメ。どうしたの」

「結局あれは何なんだ?」


 彼が指を差す先にいるのは、すっかり話題の外へ追いやられた、水で造られた黒いコートの人形だ。


「今はあれが何なのかを確かめた方が良いんじゃないか?」

「……」


 ハジメが言うことは尤もだ。花が咲いていた思い出話は一度記憶の奥底へ閉じ込め、一同は未だ消えないその人形について確かめることとした。

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