EP4-23 - それは紛れもなく
何もない空間から部屋中に降り注がれる白い雪。明らかに自然現象ではないその雪は、先ほどフィニティが唱えた魔法から発生したとしか考えられなかった。雪は未だに振り続け、実験室の床を白く染めていく。
「雪、か。中々珍しい魔法じゃのう」
「珍しいどころか、これかなり高度な魔法ですよ。雪なんて小さく繊細なものを広範囲で降らせるなんて見たことがありません」
エリーが言ったように、雪を降らせる魔法自体がとても高度なものだ。触れればすぐに水へと溶けてしまうような繊細な結晶を作るだけでも大変だというのに、それを部屋の床に積もるほど生成することができるなんて多大な魔法力が必要となるはずだ。
そして驚くべきはそれだけ高度な魔法を唱えたというのに、全く疲れた様子を見せていないフィニティだ。彼女はまるで何もなかったかのように、いつもの明るい表情でこちらの反応を伺っていた。
「それに何て言ったか。えっと、さ、さん……」
「サンヒョウジン、ですね。この魔法の名前です」
「随分変わった名前だな? 確か授業で習った氷を作る魔法は『フリージング・リザルト』だったと思うが」
「はい。皆さんが言ってるこだいって魔法はここの文字とは違うもので書かれていますから」
「ここの……?」
フィニティの言い方に引っかかりを感じたのはシャータだ。こことはどこの場所のことを言っているのだろう。少なくともこの魔法実験室のことを言っているわけではなさそうだ。そうなるともっと広い範囲のことを示しているのだろうか。
ふとシャータはある出来事を思い出した。以前フィニティが入学のための書類を見て、シャータに読み方を教えて欲しいと言ってきたのだ。あれは書類を読むことができないのだと思っていたが、もしかしたらそもそも文字が読めないということだったのではないだろうか。もしそうだとしたら、ここ二日ほど座学を受けて大変そうにしていたことも、授業の内容を口頭の部分でしか理解できていなかったのではないかと考えられる。
反対に、これで彼女が古代語しか読めない可能性がシャータの頭の中に浮かび上がって来た。それはそれでフィニティの謎がより深まることとなるのだが。
「えっと、これでいいですよね?」
皆の反応を見たフィニティが場にいる者たちへと問いかけた。確かにフィニティが唱えたのは古代魔法で間違いないだろう。高度な内容の魔法に加えて、詠唱の内容も彼女が唱えていたところを見る限りは今現在使われているものとは異なっていた。事前にリーバから聞いていた通りだ。
『古代魔法を見せてくれれば古代魔法研究会に入会をする』。一同の視線はそう言っていたワイルたちへ向けられる。そして視線の先には、わなわなと震える男子生徒の姿があった。




