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EP1-6 - 山奥の花が空を舞う

 暗闇を照らす燭台のようにフィニティの心は揺れ動く。その心の行先を決めたのは、センのとある一言だった。


「そうだ、君も魔法を習ってみないか。マージ・モンドでは最先端の技術による魔法の研究が進んでいるんだ」

「魔法の研究?」


 悩み事のせいで宙を泳いでいたフィニティの視線が、『魔法の研究』というワードを発したセンの口へと移る。


「それってどういうものなんですか。新しい魔法の種類なんですか。それとも魔法の使い方?」


 それだけではなく、彼女はその体をセンの息が当たるほど近くまで詰め寄らせた。早口でまくし立てるフィニティの頬は赤く染まっており、心なしか息遣いも早くなっているようだった。そう、これまでにないほど、彼女の顔には感情が現れていた。


「あ、あぁ。魔法に興味があるのか?」


 提案をした当の本人であるセンは戸惑いの様子を見せる。一度自分を魔法学校の教員と伝えていたこともあり、ここまで彼女が魔法に対して食いついてくるとは思わなかったからだ。今覚えば、あのときは学校というものを知らないのだから食いついてこなかったのも納得できる。

 そして、何故魔法について彼女がこれまで食いついてきたのか。その理由はすぐに明かされることとなった。

 

「はい。魔法使いなら当然でしょう?」

「そりゃあ魔法使いなら。……魔法使い?」


 思わず流してしまいそうになったが、その情報はセンにとって初耳だった。

 ――この幼い少女が魔法使いだというのか? 自分が指導している生徒よりも十年は若そうなこの少女が?

 センはそう疑問に思ったものの、何もおかしいことはない。魔法を使いこなすには知識よりも潜在的な体質のほうが重要だ。人の体内にある魔臓と呼ばれる臓器が丈夫であるほど、より強力な魔法を使えることになる。つまり生まれつき魔臓が丈夫であれば、子どもであっても成人した人間レベルの魔法を扱うことはできるということだ。しかしそれは理論上の話であり、現実ではいくら生まれつきの魔臓が丈夫だとしても、子どもの魔法が大人の魔法の効力を超えた実例はない。

 それに臓器が丈夫だとしても、知識をおざなりにしても良いということではない。いくら生まれつきの地頭が良くても、文字を知らなければ文章を書くことができないということだ。つまり彼女が魔法使いだというのであれば、それは誰かに魔法を教わったということのはず。一体誰が教えたのか。

 いや、ここまでの会話でヒントは出揃っている。彼女がこの山で関わっているのは、彼女のお爺さんとお婆さんしかいないはずだ。つまり、フィニティに魔法を教えたのはそのどちらかか、またはその両方となる。

 だがそれが真実だとすると、センには引っかかるポイントがあった。何故わざわざ人里から離れたところで魔法を教えていたのか、だ。

 フィニティが人間を拒否しているならば納得はできるが、今の様子を見る限り彼女は街に興味があるはずだ。好奇心旺盛な彼女をここに放置するのにはそれなりの理由があるのではないだろうか。例えば、この山に秘密があって彼女は何かの実験に利用されているだとか、それとも普通の人間には教えることのできない魔法を教えていただとか。そんな風に彼女の存在を隠す理由があったのかもしれない。

 さすがに邪推しすぎだろうか。しかし、湧き出る謎を止めるほどの『何か』が出てこない。やはり彼女をこのまま山に放置しておくわけにはいかない。


「そうだな、魔法使いなら当然だろう。どうだ、行ってみないか」


 どこか嫌な予感がしたセンは、フィニティの手を掴み強引な説得を試みようとする。だがそんな必要もなく、彼女の心は既に動いていた。センがそれ以前に発した言葉のせい(おかげ)で。


「そうですね。新しい魔法、知りたいです。行ってみたいです!」

 

 そう言う彼女の顔は、まるで曇りのない青空のようだった。

 山奥の花が空を舞う――。などという言葉がセンの脳裏によぎった。

これにてエピソードが一区切りつきましたので、次回よりエピソード2になります。

現時点であらすじ1行目でしかないという。

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