EP4-20 - 古代魔法の申し子
ワイルとショージュは確実に何かを隠している。彼らが無言を貫き通し、逃げられる前にその隠し事を聞き出したいとエリーは思っていた。しかしエリー自身、ブラフをかけることは得意ではない。寧ろ彼女は感情が顔に出るタイプだった。こういうことが得意なのはシャータなのだが、彼女がその能力を発揮できるのは友人相手の時だけだ。シャータの交友関係は広いものの、二人の様子を見ている限りは彼らと彼女が友人関係だとはどうしても思えない。
「もういい。これ以上邪魔をするなら出て行ってくれ」
追い詰められたワイルはそう言い放つと、フィニティ達に背を向けてその場を去ろうとする。まずい、このままでは結局彼らに逃げられてしまう。こうなったら無理やり腕を掴んででも引き留めようか。そう考えたエリーが行動へと移す前に、フィニティが一歩前に出た。
「じゃあ、その魔法を見せればいいんですよね」
「……は?」
「魔女さんが見せようとしていた魔法。それを見せれば全部解決ですよね」
まったく普段通りの様子でフィニティはそう言って見せる。それを聞き、最初こそ驚いた様子のワイルであったが、次の瞬間には意地の悪い顔を浮かべていた。
「お前が? 古代魔法を使って見せると言うのか?」
「こだいというのはよくわかりませんが、魔女さんが倒れていた時に持っていた本なら見ました。多分何とかできます」
「馬鹿な発言でもここまでくると笑えるな。なぁ、ショージュ?」
隣に立つ少女へ同意を求めるワイルであったが、ショージュは何も答えない。
それよりも見るべきはエリー達の方だろう。彼女らは未だに驚愕の表情を浮かべ続けていた。それもそのはずだ。彼女らは重々理解しているが、古代魔法は一介の学生が扱えるものではないのだ。フィニティはそれをわかっていない。
「ちょ、ちょっとフィニティ。こっち」
シャータはフィニティの腕を掴むと、エリーやハジメと一緒に端の方へと歩き出す。そしてコソコソと小さな声で話をし始めた。
「フィニティ。話聞いてた?」
「聞いてましたよ?」
「古代魔法って何かわかる?」
「良くわからないですけど魔法ですよね?」
「うん。まぁそうなんだけどね」
シャータは頭を抱えた。やはりフィニティは今の状況を理解しきれていない。このまま本当に古代魔法を披露することとなれば、フィニティは失敗し、今度こそワイルとの繋がりは消えてしまうだろう。何か隠し事をしている以上、このまま事件をなあなあで済ませたくはない。それが一同の総意だった。
「どうするエリー?」
「どうするって言ったって、さっきの話はなかったことにしてもらうしか」
「そうなったらあいつ、絶対に調子乗ってアタシたちのこと馬鹿にしてくるよ。そんでもって話を聞くなんてできなくなる」
「それはそうだけど。そうなんだけど」
「……いや、何とかなるかもしれんぞ」
コソコソと話すシャータとエリーの間を、リーバが割って入ってくる。その顔はいつものおちゃらけたものではなく、初めて見せるような凛々しいものであった。
「嬢よ。さっきお主は、ワシが持っていた本を見たと言っておったの」
「はい。そうですけど」
「それを見て何とかなると思ったということは、本の内容がわかったということか?」
「だから。そうですけど」
「ちょっとリーバ。一体何を」
「わからんのか? こやつが言っていることが何を意味しているのかを」
リーバはその凛とした顔、真剣な声でこう言った。
「こやつは古代語を理解している、ということじゃ」
(作業用BGMでニコニコを使っているので、今の状況はなかなか不便ですね……)




