EP1-5 - 街に惹かれる少女
「フィニティ。君はこの山以外の場所を知っているか」
センは安全や危険という話ではなく、フィニティの持つ好奇心に向けて話をし始めた。学校について話をしたときに、初めて「疑問」という感情を見せたことを、彼は覚えていたのだ。そしてその予想通り、彼女の眉がピクリと動く。
「……じっちゃんから話だけ聞いたことがあります。でも、実際に山から下りたことはないです」
視線がセンの瞳へ向かう。もっと知りたい、話してくれとでも言うように。心なしか頬も赤く染まっているように見え、興奮しているように思えた。
「なら街へ行ってみないか。街にはたくさんの人や物が集まっている。きっと君のためにもなるはずだ」
「たくさんの人……。でも、じっちゃんとばっちゃんが何て言うか」
フィニティは断る素振りを見せたものの、街へ行くことについて否定をしなかった。彼女の興味は街へ移っているに違いない。説得するなら今しかないと、センはこのまま勢いで乗り切ろうと考えた。
「お爺さんとお婆さんには書置きを残しておこう。街にいることがわかれば、二人も戻ってきたときに安心するんじゃないか」
「でも、街のどこにいるかまではわからないはずだし」
「僕が所属している学校の名前を書いておこう。そうすればこの後何かあったとしても、僕から君に連絡が取れるはずだ」
「そうですね。……でも、もし遠く離れていたら連絡の取りようなんて」
「街なら伝書鳩による手紙のやり取りができる。多少離れていてもすぐに連絡が取れるよ」
「デンショ……。でもでも、あたしにそれが何かよくわからないですし」
ここまで話をして、センは気が付いた。フィニティは彼の誘いを断る口実を探しているのだということに。
彼女の興味は完全に街へ移っている。だが不安からか、それとも祖父母への思いからか、彼女はこの山へ残ろうと考えているようだ。
無理強いをするのは良くないとセンもわかっている。だが同時に、危険があるこの山で暮らすより街で過ごした方が安全なはずだともセンは思っている。何よりせっかく街に興味を持っているというのに、この山でひきこもるなんてもったいない。
決めるのはフィニティ自身だ。でも、フィニティが持っていない選択肢を提示してあげるのも大人の義務だ。センはそう考える人間であった。
未だあらすじ部分にすらたどり着いてませんが、リハビリも兼ねているので大目に見てもらえると助かります……。