EP1-4 - 少女を説得する青年
(サブタイトルセンスないなぁ)
センはここで質問をやめようかとも思ったが、フィニティにはまだまだ謎が多い。このまま彼女をこの山で一人にするのは得策ではないと、そう思ったセンは踏み込みすぎたことを反省しながらも質問を続けた。
「ところで、君にはお爺さんとお婆さんがいると言っていたよな。もう日が落ちているが、いつ帰ってくるんだ?」
窓の外の景色はすっかり闇に染まっていた。センの毒がどれくらいの時間をかけて抜けていったのかはわからないものの、倒れた時には夕暮れだったことを考えると時刻はかなり遅い方だろう。人の家庭に口出しをするのは良くないと思うが、こんな遅い時間に幼い少女を一人にするのはいかがなものかとセンは思った。
「さぁ。ちょっと用事があるって言って出ていっただけなので、どこにいるのかはわかりません」
「出ていったって、いつだ?」
「えぇと」
フィニティは壁に掛けられた木の板をちらりと見た。色々な模様や数字らしきものが彫られているその板は、恐らくカレンダーの役割を果たしているようだ。
「火の季節が二度回ったはずなので、多分二年です」
センは絶句した。彼が予想だにしなかった答えが返ってきたからだ。
フィニティは二年もの間、たった一人でこの山に住んでいるという。街から遠く離れ、毒のある植物が生い茂っていて、恐らく熊や狼などの人を襲う動物もいるであろうこの山で。その返答をそのまま信じるのならば、彼女はとてもサバイバル能力に秀でているのだろう。
そしてその答えが真実であれば、恐らく祖父母とやらは亡くなっているだろうとセンは思う。こんな幼い少女を二年も放置して為さねばならない用事など想像がつかないし、二年も家を空けるのであればそれを少女に伝えるはずだ。なにより、行先も内容も伝えずに二年も帰ってこないなんて不自然すぎる。
推測ではあるが、用事があると嘘をついて家を出たあと、ひっそりと亡くなったのではないだろうか。両親を失っているフィニティが最後の家族である祖父母も失ったとあれば、彼女は酷い悲しみに襲われることだろう。その悲しみを防ぐため、嘘をついてから亡くなったと考えれば諸々の辻褄が合う。
そうだとすると彼女をこの山に一人で置いておくのは、やはり得策ではないだろう。これまでは何とか生きてこれたのかもしれないが、今後もそうだとは限らない。危険が多いこの山で過ごすより、安全な街で過ごす方が彼女のためにもなるはずだ。
「フィニティ、一緒に街へ来る気はないか」
「まち、ってなんですか」
「ここより安全な場所だ。君が育ったこの山を悪く言うつもりはないが、危険が隣り合わせのこの山よりも街に来た方がいいはずだ」
「そうなんですか」
そう答えるフィニティだが、表情から察するにセンの言葉を理解できていない様子だ。ここは説得の切り口を変えた方が良いと考えたセンは、これまでのフィニティの反応から、別の言葉をかけることにした。