EP3-22 - 今使うべき力
「――おや、体が耐えきれませんでしたか」
エリーが意識を失った直後、彼女に声を掛けた人物がいた。黒いコートを深くかぶった中性的な声の人物。性別すらわからないこの人物は、以前エリーに『魔力を高める道具を売っている』と言っていた商人だ。
その奇妙な格好はとても人の目を引くものだが、周囲にいた生徒たちは誰も商人の存在について言及していない。まるで誰もが商人の存在に気が付いていないかのようだった。そんな商人は倒れたエリーを仰向けの体勢にすると、制服をまくり上げて彼女の腹部を確認する。そこには臍の辺りを中心にして渦を巻くように黒い模様が描かれていた。そしてその模様は、今この瞬間にも徐々にエリーの身体中へと広がっている。
「ほう? これはやはり……」
「何をしているの」
何かを納得したように声を漏らす商人。その人物の下に一人の少女が現れた。
フィニティだ。
「おや。あなたは確か、近々この学校へ入学するという新入生の方……でしたっけ」
「エリーさんに何かをしたのはあんたか?」
冷静を欠いているからだろう。その口調は余所行きのものではなく、彼女本来のものになっていた。声も普段より低く、怒りと憎悪が入り混じったものとなっている。
「どうしてここに? そして何故あなたはワタシの姿がみえるのでしょう。不思議ですねぇ」
「質問をしているのはあたしだ。言え」
「魔法の効果が切れているわけでもない、か。では彼女自身がワタシの魔法を打ち破ったということですか」
「言えって言っているだろ!」
「いやぁ。面白いですねぇ」
「っ!」
話しても無駄だと判断したフィニティは地面を蹴って相手との距離を詰める。山育ちである彼女の身体能力は高く、あっという間に商人へと接近し、その腕を力強く掴んだ。
「痛っ、痛ーいっ」
「何をしたのか――」
「言えって言われましたなぁ。では言って差し上げましょう」
どこまでも舐めた態度をとる商人に対して酷く苛立ちを覚えるフィニティ。しかし今一時の感情に身を任せて商人を攻撃してしまえば、エリーの身に何が起きているのかがわからず、助けることが困難になってしまう。無意識だがそう理解したフィニティは、話を続けるよう促した。
「彼女には薬を渡しました」
「薬?」
「魔法力を高める効果がある、と言われている薬です。初めての作品なのでどうなるかはわからなかったんですけど、いやぁ上手くいったようでよかったよかった」
適当な物言いだが、この人物が何を言っているのかは概ね理解できた。要は、どんな副作用があるかわからない薬と称するものをエリーに飲ませたということだろう。人体に害があるかもしれないものを飲ませたというのだ。
「勘違いされたくないんですけど、ワタシは彼女に薬を渡しただけです。決断して、飲んだのは彼女です」
「うるさい!」
フィニティは高速で詠唱を行い複合魔法を唱えると、地面から植物の蔓を生み出して商人の両手両足を拘束する。
「解毒薬は?」
「ありがたく思いなさい。ないと断言してあげます」
「覚えてろ」
本当なら魔法で痛めつけてやりたいところだが、今は一刻も早くエリーを治療しなくてはならない。この人物は捕らえておくとして、フィニティは今やるべきことへと向き合うことにした。
「エリーさん! しっかりしてください!」
本来ならば医者のところへ行くべきだ。魔法では誰かを治療することができないのだから。
しかしそれは、彼女以外ならの話である。
「今、貴女を治します!」
両手をエリーに翳すフィニティ。その手の先には魔法陣が生まれていた。
ようやく主人公の登場です。彼女がエリーの場所へやってきたのも理由があるのですが、それはまたいずれにて。




