EP3-21 - 独りと群れ
エリーを追いかけるために廊下へと飛び出るシャータ。しかし既にエリーは姿を消しており、右を見ても左を見ても彼女の姿が見当たらない。なんて逃げ足の速い奴なんだ、シャータは一つ舌打ちをする。
だが、ここで簡単に諦めるシャータではない。彼女はもう一度左右を見渡し、近くで談笑をしていた彼女の知り合いたちに声を掛ける。
「ねぇグラス、フロク、エリー見なかった?」
「あ、シャータ。どうしたの?」
「エリーならさっき反対側の方に行ったよ」
「ありがと、理由は後で話す!」
そう。昨日や今日はエリーやフィニティとよく共に行動していたシャータだが、彼女は他にも友人が多い。おまけに探しているエリーは学校中のクラスメイトときた。ならば、校内に散らばっているであろう彼女の知り合いに声を掛け続けていれば、エリーの下へとたどり着けるはずだ。
(待ってろエリー。絶対に見つけ出してぶん殴ってやる!)
誤った道へと進んでいる彼女の親友のことを思い、シャータは廊下を駆け出した。
――――――
「はぁ、はぁっ」
息切れを起こしながら、ベンチの背に手を掛けるエリー。全力で走った彼女がやって来たのは、怪しい商人と出会った中庭だった。悩み事を解決することができたこの場所に来れば誰かが、何かが今の状況を何とかしてくれるかもしれない。彼女は無意識にそう思い、ここまで走って来たのだった。
しかし、そこにいたのは屋外で弁当を食べようとしていた生徒たちだけであり、エリーを助けてくれるような存在はどこにもいない。件の怪しい商人も見当たらない。息を整えながら、エリーは虚空へと手を伸ばす。
「誰か、私をっ」
――助けて!
その救難信号が誰かに届くことはなかった。視界がぐるぐると回りだし、彼女の体は地面へと倒れる。急に走ったからではなかった。まるで体の所有権が奪われたかのように、エリーは自分の意思で体を動かせなくなっていた。
何かがおかしい。そこでようやく、エリーは自分自身に起きている異変に気が付いた。先ほどまでの自分ではなくなったかのような高揚感や、ふわふわとした幸福感。まるで夢の中にいたようなあの感覚は、今振り返ってみると異常な感覚だった。シャータや教師に言われたように、手を出してはいけないものに触れてしまった。その代償が今なのだと、彼女は理解した。
(体が、寒い)
感覚が消えていく。地面が、風が、自分の体温が、何も感じられなくなる。このまま自分は死んでしまうのだろうか、そういった恐怖感も消えていく。
(親不孝な娘で、ごめんなさい)
意識が消えゆく中、エリーが最後に思ったのは、自らの父に対する謝罪の言葉であった。




