EP3-17 - 力を持った少女
「やるじゃないかエリー・サーベス。まさか複合魔法を使うとは思わなかったぞ」
「それほどでも」
したり顔でそう答えるエリー。謙遜的な返答とは裏腹に、その口元は自信に溢れていた。それもそうだろう。今この場で複合魔法が使える生徒は彼女しかいない。それほどまでに難しい複合魔法を使いこなしたエリーの下へ、多くのクラスメイトが羨望の眼差しと称賛の声を送っていた。
「素晴らしいですわエリー様!」
「まさか複合魔法を使えるだけの魔法使いだったなんて思わなかったよ!」
「流石はスーン・サーベスの娘だな!」
(やめろ。そんなこと言うなよ)
その言葉はエリーが一番嫌っていたものだった。
これまでのエリーであればその言葉が聞こえた瞬間に顔色が曇っていた。どれだけ上機嫌だったとしても、『スーン・サーベス』の娘であることを突き付けられると彼女はコンプレックスを刺激されてしまうのだ。しかし。
「えぇ。私はスーン・サーベスの血を引くものですもの。これくらいは当然よ」
今日のエリーは、寧ろその言葉を聞いて嬉しそうにしていた。シャータに見せていた意地の悪いものとは違う純粋な笑顔。
それはきっと、大勢の前で高度な魔法が使うことできたからだろう。これまではどこか夢心地だったものを、エリーは現実として再認識したのだ。自分は本当に魔法力が上がったのだと、立派な魔法使いになることができたのだと、父にふさわしい娘になることができたのだと。全身を駆け巡る幸福感は、エリーを自然と笑顔にさせた。
「私はお父様にふさわしい娘、エリー・サーベス。以後、お見知りおきを」
その言葉を聞いて、周囲の生徒から黄色い歓声が上がった。偉大なる魔法使いが誕生したことを祝福しているような、そんな声だった。
(なーにが以後、お見知りおきを、だよ)
その枠組みから外れていたのはシャータだ。覚えていた苛立ちは確固たるものとなっていた。この場では彼女の内面を知る唯一の人間だからこそ、今の彼女の一挙一動が気に障る。シャータの知るエリーはこのような人間ではない。不器用ながらも一生懸命で、色々と悩みながらも父親の名に恥じないような人間になろうとしていた。
勿論、魔法力が上がるのは良いことだ。それはエリーが最も望んでいたことだから。だが、今のエリーは自分の力を誇示するために魔法を使っているように見える。力に振り回されているように見える。シャータの視点では、そう見えるのだ。
もしかしたら今のエリーが彼女の本性なのかもしれない。しかし入学してからの数か月間、シャータが見てきたエリーは、今のエリーではないのだ。
(アタシは、あんたを取り戻す)
シャータは改めて、これまでのエリーに戻す作戦を考え直すのだった。




