EP3-15 - すれ違う二人
二時限目は魔法の実習授業だ。魔法実験室へ移ったエリー達に課せられた課題は、自分の立っている位置から十メートル先に置かれた人形を手に入れるというものだった。勿論魔法を使用して、だ。
これは自分から離れた場所にある物を手にするという実習だ。この実習を行うことで、例えば窓の外に大切なものが放り出されたとしても、それを取りに行くことができる。講師であるジコウ・ルースはそう言っていた。
風の魔法を使用して人形を浮かせるも良し、逆に自分を人形の位置まで浮かせるのも良し。氷の魔法を使って空間に道を作るなども認められていた。とにかくこれまでの実習の中から自分に合った方法で人形を入手できれば良いとのことだ。
「魔力が少ないものは風の魔法で人形を浮かせると良い。こちら側へ引き寄せるように浮かせることができれば、常時魔力を使う必要などないからな」
そう言ったジコウに対して、エリーは不快感を覚えた。まるで魔力が低い自分を笑いものにしているように感じたからだ。
無論、ジコウにその気はない。寧ろ生徒へのちょっとしたアドバイスのつもりだった。エリーがそのような気分に陥ったのは、彼女が自身に感じていたコンプレックスからの被害妄想だ。
(でも、今日からの私は違う)
これまで魔力が低かったエリーだが、彼女はそれをとある方法で克服している。その事実を思い出すと、彼女の中の不快感は消え去った。
(今の私を笑う人なんていない。私はお父様に、スーン・サーベスにふさわしい人間になったんだ)
そして先ほどまでとは逆に、快感が彼女の全身を駆け巡る。今の自分なら何でもできるという根拠のない万能感が、自然と彼女の口角を上げていた。
「またニヤニヤしてる。気色悪いよ、その顔」
「え?」
そんな彼女に苦言を呈したのは、友人であるシャータだった。
「気色悪いって、そんな顔してた?」
「うん。ちょっとお近づきにはなりたくないような顔だったね。良かったじゃん、あんまり人と関わりたくないって言ってたよね」
「なんかシャータ、今日トゲトゲしくない?」
「別に」
「……もしかして、嫉妬?」
「はぁ?」
あまりに的外れな指摘に少々苛立ちを覚えるシャータ。しかし、それが良くなかった。普段しない態度をとる彼女を見て、エリーは自分の発言が当たっていると思い込んでしまった。
「だから私に何かあったのかを聞いてくるの? 私が魔法力を高められたから?」
「何でそうなるの。嫉妬なんてしてないし」
「へぇ。そうなんだ。ごめんね」
「……だから、その顔気色悪いっての」
エリーは再びにやけた表情を浮かべると、顔を講師の方へと向ける。そしてシャータはというと、苛立ちを覚えながらも一つ情報を得られたことに手応えを感じていた。
(魔法力を高められたって、どういうことだ)
魔法力に関してはEP2-6で触れてますね。




