EP3-8 - 差のある二人
「それでチャーティー先生はなんて?」
制服を着てクルクルと回っているフィニティに対してエリーが問いかけた。初めて着た制服が余程気に入ったのだろう、かれこれもう一時間になるが、彼女は一度着た制服を全く脱ごうとしなかった。
「あ、そうだ。センさんから教えられたんですけど、入学の準備がそろそろできそうだーって言われました」
「あら、それは良かったですね」
センはフィニティをこの学校に入学させるため、転入の手続きをすると言っていた。そんな彼がわざわざ制服を届けに来たということは、それに関連した要件だということは、エリーも薄々わかっていた。
しかし、昨日の今日で転入の手続きが完了するだなんていくら何でも早すぎないだろうか。それだけがエリーの脳内に若干引っかかった。
「ソクテーキってやつであたしの魔力を測ったじゃないですか。その結果を見た偉い人が、ぜひこの学校に来てくれって言ってくれたみたいなんですよね」
「偉い人……。理事長ですか?」
「あ、確かそうです。リジチョーさんがそう言ってたって」
「お父様が」
エリーの父親であるスーン・サーベスは、魔法使いの未来に対して真剣に考えている男だ。だからこそ魔法の専門学校であるマージ・モンドを設立し、教育水準を上げようとしている。そんな彼がフィニティの魔力を目にして無関心でいられるわけがない。もしかしたら教員に任せず、自らの手でフィニティを最高の魔法使いにするべく育てたいと思っているかもしれない。実の娘だからこそ、エリーには父の考えがよくわかった。
「羨ましい……」
「え?」
「いえ、何でもないです」
エリーの素の魔力はそこまで高いわけではない。かつて自らが測定器を使用した時のことをフィニティに話していたが、彼女の魔力はフィニティとは異なりマージ・モンドへ入学するために必要な分しか保有していなかった。それは一般的な魔法使いと比較しても若干上回る程度のものであり、この学校の中でエリーの魔力は下から数えた方が早いくらいであった。だからこそ親のコネでこの学校へ入学したなどと言われないよう、良い成績を残す必要があったのだ。
だが、理屈では感情を抑えきれないものだ。父が求めているのは凡庸な魔法使いである自分ではなく、フィニティのような素晴らしい才能の持ち主のはず。それはスーンがフィニティをスカウトしたことから容易に想像ができた。エリーはこの学校に入るとき何も言われなかったというのに、だ。その事実がとても悔しくて、羨ましくて、妬ましかった。
「ごめんなさいフィニティ。ちょっと用事を思い出したので、部屋で待っていてくれますか」
答えも聞かずにエリーは自分の部屋を出る。今、この感情のままで二人きりになると、フィニティに酷いことを言ってしまうかもしれない。彼女はまったく悪くないのにも関わらずだ。そんな最低な行為だけは避けたかった。
ちょっと散歩でもしよう。エリーは寮を出て、中庭を目指して歩きだした。
あとがきのネタもなくなってきましたね




