EP3-5 - たくさん食べる君が好き
「へー、フィニティが魔法使いねぇ」
エリーが答えた回答を聞いて、シャータが放った言葉はそれだった。驚くわけでもなく疑うこともない、ただの相槌。エリーにとってそれは少々意外だった。この学校の入学基準を考えると、幼い少女であるフィニティがそれを満たしているとは考えづらいからだ。実際、センが彼女をマージ・モンドに入学させると言った時は耳を疑ったものだ。その後の魔力測定ではそれよりも驚くことになったが。
「驚かないの?」
「ちょっとびっくりしたけど、この学校にいるんだったら、まーそういうことなのかなって思ったよね」
「それは、まぁ……」
確かにこの学校にいる以上、フィニティが魔法使いである可能性は高いと言えるだろう。常識的に考えるとその可能性は否定されてしまうが、柔軟な感性があればその可能性まで至ることができる。
相変わらず面白い考え方を持っている人だ、とエリーは小さく笑った。
「それで、フィニティはいつ入学するの?」
「そこまでは。チャーティー先生が色々申請しているらしいから、それが終わり次第だと思うけど」
「あーセンちゃんがね。なるほどね」
「ちゃんと呼ばないと怒られるよ?」
セン・チャーティーは教師の中で年齢が若く、彼自身も生徒と積極的に交流をしていることから、一部の生徒からはファーストネームで呼ばれていた。親しみを込めた呼び方ではあるが、当の本人はそう呼ばれることを良しとしていなかった。曰く、自分は教師なのだからある程度の敬意をもって接してほしいとのことだ。当然の意見であった。それでもシャータのように呼び続ける生徒もいるのだが。
大丈夫大丈夫。ヘラヘラと笑いながら、シャータは皿に残った最後のパスタを口に含んだ。気が付くと料理を食べ終わっていないのはエリーだけだ。
「急がなくてもいいよ。時間はまだあるし」
「ありがとう」
礼を言い、サンドイッチを頬張る。小食のエリーは人より少ない量の食事でも食べるのが遅かった。
それにしても。
「さ、フィニティ。購買部のサンドイッチのお味はいかがだった?」
「すごくおいしかったです! こんなにおいしいのは食べたことないです!」
バスケットいっぱいに入っていたサンドイッチを、フィニティは一人で平らげていた。彼女が両手で持つくらいの大きさのバスケットなのだから、ざっと十数個ほどのサンドイッチが入っていたはずだ。
ちゃんと見ていたわけではないが、彼女が魔法使いだと伝えていた頃には既に食べきっていたような気がする。エリーが一つのサンドイッチを食べている間に、だ。いくら美味しいとはいえ、よくその小さな体にそれだけのパンが入るものだ。
もしかしたら彼女が持つ魔力の大きさは、食事の量なども関係しているのかもしれない。今後は少し食べる量を増やしてみようか、とエリーは心の中で小さな決心をするのだった。
明日から二月ですね。年度末ですが皆さん頑張りましょう。




