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フィニティ・フレインは山を下りて何を思うのか  作者: 鳥羽 こたつ
エピソード3

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EP3-3 - 縁のある人々

「購買部の人からお弁当を貰ったんです。一緒に食べませんか?」


 笑顔を浮かべながら、フィニティはエリーの傍へと駆け寄る。彼女が両手で持っているバスケットの中からハムやチーズの美味しそうな匂いが漂い、それが遥か彼方へ飛んで行ってしまいそうだったエリーの意識を繋ぎとめた。この匂いは購買部特製の手作りサンドイッチのものだ。

 先ほどエリーが聞いた、購買部の看板娘の話。その看板娘というのが、目の前にいる少女フィニティ・フレインのことだということを、エリーは既にわかっていた。授業を受けている間、自室に彼女を放っておくと何を起こされるかわからないと判断したエリーは、購買部のおばさんにフィニティの保護を依頼した。購買部のおばさんの子ども好きはこの学校の中で有名であり、フィニティを任せるには適任だろうと考えたためだ。

 結果的にそれは上手くいったようで、購買部に預けられたフィニティはそこに馴染んでいたようだ。その証拠に、授業と授業の間で購買部を利用した生徒達が、フィニティの話題を口にしていた。曰く、購買部の前に小さな女の子が立っており、元気に呼び込みをしているとのこと。更にその屈託のない笑顔を見ると、ついつい余計に物を買ってしまうとのことだ。

 その笑顔についてはエリーも知っている。フィニティと初めて出会ったとき、彼女はすごく嬉しそうに校内を歩き回っていた。エリーが注意したせいでその笑顔が消えてしまったときは、犯罪でも犯したかのような罪悪感に襲われたものだ。

 何はともあれ、このままいけば自分がフィニティと関わらずとも、彼女はこの学校に入学するまでの時間を過ごせるだろう。自分のためにも彼女のためにも、これ以降は購買部のおばさんに彼女の保護を任せた方が良さそうだ。

 と、エリーは考えていた。十六歳の少女に自分の生活を犠牲にして他人を優先する余裕を持てというのは酷なものだ。

 すみませんフィニティ、入学したら改めて仲良くしましょう。心の中でフィニティに謝り、エリーは昼食の誘いを断ろうと口を開く。


「ありがとうフィニティ。でも今日は私――」

「はぁいエリー。ご機嫌いかが?」


 しかし、そこに今朝と同じセリフで割り込んでくる女生徒が一人。エリーのクラスメイト、シャータ・スチャンである。

 何故彼女がこのタイミングで声を掛けてくるのだろう。シャータは他のクラスメイトとは違い、こちらの様子を伺うことができる人間だ。今回のように会話の途中で声を掛けてくるなど、彼女にはありえない行動だった。

 そんな疑問を抱えていると、シャータはエリーの耳元へ近づき、誰にも聞こえないような声量で囁き始める。


「聞いたよ。この子、昨日初めて学校に来て、エリーの部屋に泊まったんだって?」

「そうだけど、それが何か」

「ここで断ったらこの子、ひとりぼっちになっちゃうんじゃない?」

「それは」


 購買部に戻ればおばさんが相手をしてくれるはずだ。実際にエリーはそう考えていたし、そう言おうとした。だけど、声に出すことはできなかった。

 フィニティが購買を離れたということは、そこにいるよりも自分に会いたかったと推測することができた。それが自分にとって都合のいい妄想でないことは、自分を見つけた時に浮かべていた彼女の笑顔が証明している。自分はフィニティにとって、この学校での数少ない味方なのだ。

 自分を見られることがなく、その先にある父親を見て会話をされているエリーだからこそ、その味方のありがたみがわかる。そしてその味方がいなくなる悲しみや憎しみも、エリーだからこそわかる。

 ……午後の授業も睡魔と戦う必要がありそうだ。


「フィニティ」

「はい?」

「パンを買ってくるのでちょっと待っていてください。お昼、一緒に食べましょう」


 十六歳の少女は、初めて自分の生活を犠牲にして、他人を優先する余裕を持つことができた。

なんかいつもの僕の作品っぽくなってきました。

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