EP11-23 - 決戦前日
月日は経ち、イベント前日。
この日は休日であり、学校が休みだったため、フィニティは家で最後の準備を行っていた。明日使用する空間魔法について、失敗することがないよう練習をしていたのだ。自信はあるが、万が一ということもある。また、作戦を行う前日となり、彼女の心に乱れが生まれたことも関係していた。
「む……」
以前彼女がマージ・モンドで披露した大きさの空間生成でさえ、少し歪な物となってしまう。歪な空間はアクセスすることが難しく、収納したものを取り出すことが不可能となってしまう。加えて、物を収納しようとしても失敗することがあり、収納したはずのものが消失してしまうこともある。古代から現代にかけて、空間魔法の存在が受け継がれなかったのは、そのような扱いの難しさがあったからかもしれない。
「むむ……」
これまで容易にできていたことも、一度失敗を意識してしまうと上手くいかなくなってしまう。眉間に皺を寄せて魔法の練習を続けるフィニティであったが、その肩にポンと手が乗せられた。この山に住んでいるのはフィニティと祖父母の三人だけだ。もしかしたら祖父がアドバイスをしようと、声を掛けようとしているのかもしれない。
「じっちゃん? 何か用……」
「こんにちは、フィニティ」
しかし、声を掛けてきたのは家族ではなく予想外の人物であった。フィニティが振り向いた先には金髪のクラスメイトが立っていた。
「エリーさん? どうしてここに」
フィニティ達が済んでいるヤクノシュ山は人里から離れていることもあり、自分たち以外の人間が来ることは滅多になかった。それこそ、過去に偶然センがやって来た時くらいだろう。だからこそフィニティは、まさかここにエリーがやって来るだなんて思ってもいなかった。
「ゲシハーさんが寮に来てね。フィニティの緊張を解いてやって欲しいって頼まれたんだ」
「そうだったんですか」
ずっと集中していたこともあり、フィニティはゲシハーがいなくなっていたことに全く気が付いていなかった。そういえばお腹も空いている。どうやら今は昼過ぎのようだ。
「フィニティ、朝からずっと練習しているんでしょう?」
「そうですね。意識はしていなかったんですが」
「だったら一回休憩しようよ。明日のためにもちゃんとご飯は食べた方が良いよ」
「でも、魔法が……」
エリーはフィニティの言葉を遮り、彼女の手を引いて家へと強引に連れていく。気分転換をするには食事が一番だ。そう言ってエリーはフィニティを食卓の場に座らせた。




