EP11-14 - 祖父母の思い
「よーし、これで大体片付いたかな」
半年近く放置していたこともあり、やって来た時は酷く散らかっていた我が家だったが、数十分間にわたる掃除によって生活ができるくらいの清潔さを取り戻していた。ドアンドたちが荒らした本棚も、法則に沿って綺麗に本が並んでいる。
「今日はもうご飯にしましょう。魔法の練習は明日からで」
「そうじゃのう。ところでフィー、明日からはどうするつもりなのじゃ?」
「もちろん学校は行くよ。でも、転移魔法だけじっちゃんに教わっておきたいな」
この山から街に下りるまで数時間かかる。実際には、更にそこからマージ・モンドへたどり着くまで歩くことを考えると、この小屋から学校に通うのは現実的ではなかった。しかし、転移魔法の存在があるからこそ、彼らは一旦この小屋まで戻って来たのだ。
フィニティは今から魔法を教わるつもり満々であり外に出ようとしたが、ゲシハーはその手を掴んで床へと座らせた。
「そう慌てるでない。転移魔法の勉強も明日教えることにしよう。ワシも明日はフィーが通う魔法に行こうと思うのでな」
「じっちゃんも?」
「うむ。スーン殿と話があるのでな」
ドアンドをおびき寄せる際のイベント会場の確認。そして当日の作戦などを考える必要があるため、ゲシハーはこの小屋へと帰る前にスーンと共に打ち合わせの予定を立てていた。また、単純に孫娘が通う学校を細部まで見ておきたかったという考えもあるが、それは自分の心にしまっておくことにした。
「そっか。じゃあ今日はご飯の用意してさっさと寝よっか。あたし野草取って来る!」
「あ、こらフィー!」
フィニティは勢いよく立ち上がると、そのままゲシハーの手を振りほどいて外へと飛び出していった。エネルギーに溢れたその後ろ姿を見て、祖父母の二人はやれやれといった様子で溜息を吐いたあと、微笑を浮かべる。
「フィーは随分元気な子になったわねぇ」
「うむ。元から元気な子ではあったが、あんなに楽しそうにしているフィーは見たことがない気がするわい」
自分たちが知る孫娘は、魔法について強い関心があって勉強や練習には熱心であったものの、それ以外のことに関してはあまり関心を持たない少女だった。しかし今の彼女は何事にも興味を持ち、すぐに行動に移すようなアクティブな子どもだ。少し見ない間に良い方向へ成長したと、祖父母は思った。
「きっと、あの学校の生徒さん方のおかげよ」
「感謝しなければならんのう。フィーを連れ出してくれたセン殿に」
ここにはいない彼女の担任に、彼らは精一杯の思いを込めて感謝をする。彼に幸せが訪れるますように、と。
そんな噂を感じ取ったのか、学校で仕事をしている彼は盛大なくしゃみをするのであった。




