EP10-18 - 切り札の存在が明かされる
ドアンドが奪い取っていった本の話を聞き、動揺した様子を見せるゲシハー。彼は途中まで本を読んでいたフィニティの肩を力強く掴むと、少女の体をガクガクと揺さぶり始めた。
「じ、じっちゃん?」
唐突に行われた不可思議な行動に、フィニティは困惑した様子を隠せないでいた。そんな彼女に唾が飛びそうな勢いでゲシハーは問いかけをする。
「フィー! あの本をどこまで読んだんじゃ!」
「ど、どこまでって。確かこの時代に逃げ込んだとか、災厄が来るとか……」
「ではその後の切り札の魔法については読んでいないのじゃな!」
「切り札? 何それ」
「くっ」
ゲシハーはフィニティの肩から手を離すと、これまで以上に眉間の皺を深くして宙を見上げた。額にかいていた汗はより粒を大きくし、彼の頬を涙のように流れていく。彼は乱れつつあった息を整えると、フィニティの顔をじっと見て事態を説明し始める。
「あの本には、所謂古代魔法が記しておる。もしもワシらが亡くなり、フィーや世界に対して大きな危機が起きた時への対策として、強力な魔法を残しておきたかったのじゃ」
「遺書になるかもしれない、ということはそういう意味だったのですね」
「うむ。一応フィー以外には読み辛くなるよう幾つかの工夫は施したが……」
どうやら読み辛い文字で本を書いたこと以外にも何かしらの対策は行ったようである。しかし、奪い取られた相手が相手だ。解読されるのは時間の問題といっても過言ではないだろう。
「その切り札の魔法ってどういうものなの?」
「……幾つか種類があっての。例えば、新たな空間を作り出すというものもある」
「くーかん?」
「うむ。例えば世界を覆うような天変地異が起きた際、災害が収まるまで創り出したその空間に避難をすることができる」
「ふーん」
理解していなさそうに返事をするフィニティだが、周りで聞いていた人物はそのすごさを理解できた。理解できたからこそ、思わず絶句するしかなかった。
新しく空間を創り出す。それができるということは、新たな世界を創造できるということだろう。創り出した世界をどれくらい好きにできるかはわからないものの、自分で創り出したということはある程度コントロールができるはずだ。例えば、新しい世界で強力な生物を創り出し、こちらの世界を侵略することだってできるのではないだろうか。そう考えると、一番手に渡ってはいけない人物に本が渡ってしまった可能性がある。
「何とかして本を取り返せねばならん。ドアンドが魔法を使いこなすようになる前に!」
ゲシハーの言葉に一同は頷く。
かくして、ドアンドから本を奪い返すための戦いが始まりを告げた。




