EP10-12 - 愛情の行先
「娘に自分のことを忘れられたドアンドは酷く衝撃を受けた。膝から崩れ落ち、涙を流しておった」
自らの行いが起こした結果とはいえ、たくさんの愛情を注いでいた娘に忘れられるのはとても悲しいことだろう。この場で家庭を持っているのはスーンのみだが、その悲しみは簡単に想像することができた。そう思っていたが、当人が感じていた感情はより大きなものだったらしい。
「ドアンドはそのまましばらく立ち上がらなかったが……、やがてガクガクと膝を震わせて立ち上がった。その瞳には光を失くしているように見えての」
「光……」
「彼はその瞳でじっとフィーを見つめ、そのままフィーに手を向けたのじゃ」
「手を?」
「そうじゃ。そしてその手の先には魔法陣が浮かび上がった」
魔法陣? 何故そんなものをフィニティに向けたのだろう。
「魔法陣からは勿論、魔法が放たれた。それは氷の刃じゃった。ドアンドはフィーを亡き者にしようとしたのじゃ」
「えっ!」
「偶々オコサが咄嗟にフィーを庇い、フィーが傷つくことはなかったが、代わりにオコサが傷を負っての。その時にワシらは気が付いた。ドアンドが今のフィーに向けているのは愛情ではなく、憎しみに似たものだということに」
自分のことを知らない娘。これまで愛していた者から忘却という仕打ちを受けた彼にとっては、正に可愛さ余って憎さ百倍といったところだったのだろうか。一度憎しみを抱いてしまったら、これまでの愛情の分、その感情が大きくなってしまったようだ。
「ちょ、ちょっと待ってよ。悪いのはドアンドじゃん。なんでフィニティが憎まれないといけないの」
シャータが言ったことは正論だろう。フィニティがドアンドのことを覚えていない理由は明白、ドアンドが娘と合うことがなかったからだ。因果応報、自業自得。ドアンドには憎しみを感じる権利などないはずだ。
「うむ。そこのお嬢さんの言う通りじゃの。恐らくドアンドにはもう感情を抑えるだけの理性が残っていなかったのじゃろう。色々なことはあったが全部娘のために動いていた。その娘からも忘れられた彼は、強い絶望に襲われたのじゃ」
「……そんなの」
すごく自分勝手だ。口には出さなかったが、エリーはそう思った。
勝手に魔法でフィニティを生み出して、そのあとに自分が何もしなかっただけなのに、勝手に絶望してフィニティを消そうとするなんて。フィニティが可哀想だ。彼女は何もしていないのに、勝手に憎しみを抱かれて。
エリーは改めて自分の膝の上に座るフィニティを強く抱きしめる。少しでも自分の愛情が伝わるように。




