EP10-11 - ドアンドのゴール
「ドアンドを説得し、ワシらが改めて逃亡の準備を進めようとした時のことじゃ。フィーはドアンドを見て首を傾げた」
「首を?」
「うむ。そしてそのままこう言った。あなたは誰、とな」
「えっ」
先ほどゲシハーがスーンとの会話で話していたように、フィニティはオリジナルの記憶を持たずに生まれた。再び魔法によって生まれてくるまでの間の記憶を無くしてしまっていたことはドアンドも知っていたはずだ。そうなるとフィニティは父親のことを知らないまま育ったか、何かしらの事情によってドアンドのことを忘れてしまったことになる。
しかし、これまでの話を聞く限りフィニティが生まれてからゲシハーたちが逃亡の計画を企てるまで、そこそこの時間が経過しているはずだ。その間にもドアンドやオコサはフィニティを育てているはずなのだから、彼女が自分の家族のことを忘れることなどありえない。何よりドアンドは亡くなったフィニティを複製するくらいに彼女に深い愛情をかけていた。彼が子育てに参加しないまま日々を過ごしていたとは考えにくい。少なくともこの場にいる数人はそう思っていた。
「その言葉を聞いたワシらは絶句したよ。じゃが、思い返せば当然のことじゃった。ドアンドはフィーを創ったのち、全く家に戻らなかったのじゃからな」
……そう思っていたのだが、真実はとても単純だった。
「何故です? 話を聞いているとドアンドがフィニティのことを気にかけないわけがないと思うのですが」
「うむ。実際彼はオリジナルのフィニティの時は子育てに励んでいた。それこそ、娘にかかった病気を治すために、常に彼女を視界に入れながらも病気を治す手段を探していたほどじゃ」
「では、どうして……」
「恐らくじゃが、フィニティを救うことが最終的な目的となってしまっていたのじゃろう。しかしオリジナルのフィニティは救えず、結果として複製をしてフィニティを生かすという選択をした。生まれたフィーは病気に侵されておらず、健康的な肉体で過ごすことができていた。もう気に掛ける必要がなくなった彼は、フィーたちと過ごすよりも否定派との議論に参加することが多くなったのじゃ」
今の話、辻褄は合っていないはずだ。彼の選択では、複製をして生まれたフィニティはオリジナルの延長線上にあたる存在として扱われるべきだろう。ならば生まれはどうであれ、彼は家族としてフィニティと共に暮らせばいいはずだ。なのに何故それをしなかったのか。
もしかしたら彼は自分の選択をしたあと、その行為の意味に気が付いたのかもしれない。命を複製しても、オリジナルが死んだのならばフィニティは救えていない。複製によって生まれたフィニティは、また別の存在だ。そのことに本当は気が付いていたから、フィニティを無意識に避けていたのではないか。今思うとその可能性は高かったと、ゲシハーは低く重みのある声で語った。




