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EP1-1 - 山を歩く彼

最低限毎週日曜更新は目指すことしました!

――――――

 

 人が誰も来ないような、人里離れた山の奥。人間の胸元まで草が伸び切っているように全く手入れがされていないその山の中を、一人の若い男が歩いていた。

 男の名前はセン・チャーティー。彼は道を塞ぐ雑草をナイフで切り裂きながら、山の奥へ奥へと向かっていく。それはセンの教え子である生徒のためだった。

 

「早く手に入れないと……」


 センは独りで言葉を発しつつ、目的のために足を動かし続ける。

 この山から離れた街にある魔法使いの学校……、マージ・モンドという名のその学校で教員を勤めている彼は、とある生徒から相談事を受けていた。その相談とは、彼が担当するクラスに所属する一人の女生徒からの悩みだった。

 女生徒が抱えている悩み事というのは自らの足に関することだった。曰く、最近負った傷のせいで思ったように足を上手く動かすことができないとのこと。ダンスを趣味にしている彼女にとってその悩みはとても重く、人生に匹敵する程の問題であった。その問題を解決するために、センはこの山に来ていたのだ。

 古い薬学書によると、このヤクノシュ山で採取できる薬草には足の傷に良く効くものがあるらしい。このヤクノシュ山は登る人間が少ないこともあり、センは詳細な情報を手に入れることはできなかったが、それでも彼はボロボロの本を希望にして山を進んでいくのだった。


「しかし……、流石にくたびれてきたな」


 時刻は既に夕暮れ。太陽が落ちつつあり、視界が暗く染まる時間帯だ。センは日が昇り始める早朝から山を歩いていた。まだ二十代前半と若く、更に運動神経が良い彼であっても、足の筋肉が悲鳴を上げていた。そんな不調な状態で山を歩いたことが仇となってしまった。


「痛っ」


 センの膝下に鋭い痛みが走る。鋭い刃物で切り裂かれたような痛みだ。棘にでも引っかかったかと思い、センは再び足を動かし始める。

 しかし、何だか体の調子がおかしい。痛みが落ち着くのと同時に、体の感覚がなくなってきたのだ。手、足、腕、指。やがてその不思議な感覚は視界にまで訪れ、目の前の光景が急に暗くなってしまう。


 ――まさか、毒のある棘に引っかかってしまったのか?


 目の前が暗くなり、体の感覚がなくなったセンは、今自分の体がどうなっているのかがわからない。地面に倒れているのか、それとも無意識に山を登っているのか。もしかしたらもう既に自分は死んでしまって、この暗闇から逃れられないのかもしれない。そう思うと少し不安であったが、その不安すらもやがて無くなっていく。

 薄れゆく意識の中、センは何も感じることができなかった。最後に感じたことは、生徒に対する申し訳ないという気持ちであった。

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