EP10-10 - なくなったもの
「……フィーの言うことは信じたいものだが、実際はそう上手くいかなくてのう」
オコサ・フレインは自らの夫であるドアンドを連れて逃げようとした。ドアンドは自分たちの命を狙う一派に所属しているが、その昔は優しかった彼を信じたいということだった。
しかし、オコサは既に亡くなっているとのこと。これまでの彼女の行動からは、その命を奪ったのが誰なのか、一同は容易に想像できた。
「上手くいかなかったってことは、オコサさんの命を奪ったのは、ドアンドさん?」
「その通りじゃ」
エリーの問いへの答えは想像通りのものだった。夫婦といえど、ドアンドは古代魔法の否定派の命を狙っていた。それが良くない結果を生んだのだろうと、話を聞いた一同はそう思っていた。だが、返って来た答えは少しだけ異なるものだった。
「じゃが、オコサの説得を聞いたドアンドは、一度は納得してワシらと行動を共にし始めた」
「えっ?」
「ドアンドは肯定派の一派から離脱し、ワシらと違う時間で生きようとしたのじゃ」
まさか、そんなことになっていたなんて。でも、だとしたらどうして?
二人は夫婦で、五人は家族だ。考えに共感して行動を共にしていたのなら、命を奪うことなど起きないはずだ。
「……それは、フィーに対するドアンドの考えが変わってしまったことが関係していての」
フィニティに対する考え? 本日数度目の疑問が生まれるような言い回しをゲシハーがする。ドアンドは周りが使用しないべきだという魔法を使ってフィニティを生み出した。背景はどうであれ、そこまでして創り出した命だ。その命は大事にしていくのではないかと考えられるが。
「フィーは複製されたとはいえ、新しい命じゃ。二つの命の間には確実に違うものがあるじゃろう?」
まるでなぞなぞだな、とセンは思った。基になった命と、新しく創られた命。そこにある差とは一体。
「……記憶、ですか」
違いに気が付いたのはスーンだった。彼が出した答えに、ゲシハーは頷いて話の続きを話し始める。
「そうじゃ。複製された時点でフィーとフィニティが体験する人生は異なる。そしてそれだけではなく、新しく生まれたフィーはそれまでの記憶を失っていた」
「当然ですね。新しく創られたのは肉体のみ。記憶を持ち越せはしないでしょう」
現にここにいるフィニティは過去の記憶を持っていない。もちろん幼すぎて覚えられなかったということもあるだろうけども。
「その通りじゃ。そしてそのことがドアンドの心を更に悪い方向へと変えてしまった……」
ゲシハーはいよいよ、オコサが殺された時の話をしようとする。老人は息を吐き、心を落ち着かせてから再度口を開いた。




