EP10-9 - 父との繋がり、母への繋がり
オコサ・フレイン。話に出てきた新しい人物もまた、フィニティの家族だった。ゲシハーとサオエルが言うには他人を思いやる心が強く、優しい人物だったとのことだ。一緒に逃げるつもりだったということ、そして過去形で話しているという事実が一同の頭に嫌な想像をさせてしまう。
「その人はもしかして……亡くなったのですか」
「うむ」
センの質問に対し、低く重い声でゲシハーは答える。フィニティの基となった人物と、フィニティの母親。まさか彼女の関係者が二人も亡くなっているだなんて。
「元々この逃亡計画はワシら夫婦とフィー、そしてオコサの四人で逃げようと考えていた。しかし、オコサはドアンドも連れて逃げようと提案していたのじゃ」
「えっ?」
ドアンドは影響の強い魔法を使用することを肯定していた人間、つまりゲシハー達の命を狙っていた人間だ。そんな人間と一緒に行動を共にしようだなんて、まるで自分から死にに行くようなものではないか。
「君たちの疑問は尤もじゃろう。実際にワシらもあの子の提案を否定した。じゃが、オコサはそれでもと食い下がってきた」
「どうしてそんなにオコサさんはドアンドさんを一緒に連れて行こうとしたんですか?」
もう一度センが質問する。何故彼女はそこまでして、自分の命を狙うような人物を連れて行こうとしたのか。ここまで様々な話を聞いていた彼らはその単純な真実を想像がつかなかった。
「簡単なことじゃよ。オコサはドアンドの優しい部分を知っているんじゃ」
「優しい……部分?」
「ワシらと違って、オコサとドアンドは夫婦、共に暮らす家族じゃった。共に起き、共に食事をし、共に眠る。暮らしの大半を共にしていたオコサは、ワシらの知らないドアンドを知っていたのじゃ」
ドアンドは人を煽るような過激な発言をする人物だったが、昔はそんな人間ではなかった。オコサはそう言っていたとゲシハーが言う。ゲシハーがこれまで語っていた彼の人物像とは異なるなと、一同はそう思った。しかしフィニティだけはゲシハーの言葉を聞いてこう思った。
「フィニティが大事だったのかな……」
「えっ、どうしたのフィニティ?」
エリーは自分の膝の中で呟いたフィニティに声をかける。
「多分、そうじゃないかな。あたしのオリジナルが大事だったから、治癒魔法を使えるようにするには肯定派にならざるを得なかった。だからより多くの人を巻き込もうとした……。そうなんじゃないかな、じっちゃん」
ややこしいことだが、先ほど呟いた”フィニティ”というのは自分の基となった子どものことらしい。
「しかし、ドアンドが過激な発言をするようになったのはフィーが生まれたあとからじゃぞ」
「そうかもしれない。でも、元からあたし……じゃなかった、フィニティのことを考えていたんじゃないかな」
「何故そう言えるんじゃ?」
「多分……あたしがその人から生まれたからだと思う」
ここにいるフィニティはオリジナルを基にして魔法によって生まれた人物だ。オリジナルはドアンドとオコサによって生み出されたものだが、魔法によって生まれたフィニティはドアンドだけが親であるようなものだ。
「なんとなく、少しだけわかるんだ。その人の気持ち。確かめようがないけれど」
胸に手を当ててフィニティはそう語る。自分のオリジナルの母が言っていたことは間違いないと、彼女はそう言いたかった。




