EP10-6 - フィニティが生まれた日
「さて、議論の結果じゃが……ドアンドの提案は通らなかった。命を複製し、更にその生命を弄ろうとした彼の提案は、肯定派の中にも否定的な意見が出るほどじゃった」
肯定派、つまり世界に影響を及ぼすレベルの魔法であってもどんどん使っていくべきだという派閥であっても、現代に通じるような命に関する倫理観を持ったものがいたということなのだろう。命を人工的に作り出し、それを都合のいいように操るなんて許されるはずがない。セン、いやこの話を聞いていた全員がそう感じていた。
「そしてその後、ドアンドの娘は病気が進行し亡くなった。当時の医学ではなす術がなかったのじゃ」
ゲシハーとサオエルは悲し気な表情を浮かべていた。ドアンドの娘というと彼らの孫でもある。今は事実として起きた出来事を淡々と語っているが、本来は様々な感情を抱いていたに違いない。
「娘を亡くしたドアンドはその翌日、亡骸を抱えて自らの研究室へと向かった。不思議に思ったワシは彼の研究室に入ったのじゃが、そこで彼はとある魔法を使っていた」
「とある魔法……。もしかしてそれが」
「うむ。亡くなった命を基に新たな人間を創り出していた。そこで生まれたのがフィーじゃ」
亡くなった娘を基にした命の創生。今ここにいるフィニティ・フレインはそうして生まれた。人の営みからではなく、魔法によって生み出された複製品。
自分が魔法から生まれたことを当の本人はどう思っているのだろう。そう思ったエリーは自らの膝に座るフィニティの方を見た。彼女は少しばかり真剣な表情をしているだけで何も言わない。次に口を開いたのはスーンだった。
「死んだ人間も複製することができるんですね」
「……厳密に言うと、作り出されたフィーは亡骸のままじゃった。それを今のように生者へと変えたのが、魔核じゃ」
「先ほど言っていた魔法力を込めた核のようなものですね」
「そうじゃ。フィーに埋め込まれている魔核はより強力なものでの。魔臓のサポートだけでなく、心臓の働きを代替する役目も担っているのじゃ」
「あたしの体ってそうだったんだ……」
初めて知る自分の体のこと。フィニティは驚きの様子は見せているものの、ショックを受けている様子は見られない。自分の体に手を当てて、祖父の話を聞いていた。




