EP10-3 - 古に確実にあった出来事
「ワシらの時代、即ち古代の魔法は何でもできたのじゃ。人の複製、時空の移動、物質の融合……。人にできないことなどないと言われていたくらいじゃ」
できることが多いこと、それ自体は良いことのはずだ。しかし、魔法のことを語るゲシハーは先ほどと同じく悲しそうな顔をしたままであった。
「しかし、そのことに疑問を持つ者もいた。命の複製はできると言っても、その魔法が発見される前は命は一つだという認識で通っていた。倫理的に考えてその魔法を使っていいのか、という話などが上がっていた」
命の複製と同じく、時空を超えるような魔法を使って好き勝手なことをやってもいいのか、歴史がおかしくなってしまうのではないか。物質を融合させる魔法を簡単に使っていいのか、新たな物質を生成してしまうのではないか。何もかもができるようになったとしても、何もかもやっていいということではないはずだ。そういった声が上がっていたのだと、ゲシハーは言った。
「ワシとサオエルも古代の魔法、先ほど話したような倫理観のない魔法を使わない方がいいのではないかと考えての。影響の強い魔法は使わないべき、という反対派に属したんじゃ」
逆に言うと、魔法の規制は行わないべきだと考えていた肯定する派閥がいたのか。そう一同は理解した。
「ワシら反対派と肯定派の話は平行線での。『影響の強い魔法はどんな害を及ぼすかわからないから使わないべき』、『人類の発展のためにも使うべき』……そんなことを延々と議論し続けていたのじゃ」
でも、とエリーは思った。先ほどゲシハーが言った影響の強い魔法の一つ、”時空を超える魔法”を彼らは使っているはずだ。もしかして反対派から肯定派に所属を変えたのかと邪推するエリーであったが、ゲシハーはそのことに気が付かずに話を進める。
「そんな中、とある男が肯定派に属していた。その男の名は……ドアンド・フレイン」
「フレイン……」
フィニティ、そしてこの老人たちと同じ苗字だ。ということは、以前話に出ていた……。
「そう、フィニティの父親じゃ。議論の場で最初に奴と出会った時は驚いたわい」
謎に包まれているフィニティの両親。今、その謎が明かされようとしていた。
「彼は言った。自分の娘を救うためには、反対派が言っている規制すべき魔法を使うしかないのだと」




