EP10-2 - 古代に生きる者たち
「なるほどのう……」
過去の時代の文明は意図的に封じられたのではないか、スーンはそう言った。その過去の時代を生きていたというゲシハーは、どこか悲しそうに眉を顰めながら問いかけた男へと向き直る。
「お主は確か、フィーの通う学校の創設者であったか?」
「ほう。よくご存じで」
「先ほどそこにいるフィーの教師とやらに教わったのじゃよ。その勘の良さ、フィーは実に優秀な男の下で育ったのじゃな」
「お褒めにあずかり光栄です。まさかユニヴァース・ロスト時代の方から称賛の声をいただけるとは」
スーンはどことなく仰々しさを感じる礼をすると、視線を再び老人の方へと合わせる。そして老人は、悲しそうに下がっていた眉を上げてこう言った。
「さて、お主が語った予想じゃがの。……恐らく、当たっとるわい」
「恐らく、とは?」
ゲシハーは一拍の沈黙を作った後で質問に答える。どこか気になる、歯切れの悪い答え方をした意図を、スーンは確かめようとした。
「……ワシらは古代と言われている時代の真っ最中に時空を超えたのじゃ。その時代の終わりを見届けてはおらんのじゃよ」
なるほど、とスーンは頷いた。この老人が言っていることが正しいかどうかはともかく、言っていることの筋は通っているだろう。古代という時代からやってきていると言うのであれば、その時代を見届けてはいないはずだ。
「ですが、恐らく当たっている、というからには何かしら終末を予想できることがあったのでは?」
「その通りじゃ。そしてそれこそが、フィーの生まれと関係しているのじゃよ」
「えっ。そうなの?」
いつの間にかエリーの膝の上に座らせられていたフィニティが小さな驚きを見せる。今話されていることの中心に自分がいることに気が付いていないのだろう。
「フィーがワシらの孫、ワシらの娘夫婦の子どもを基に作られた命ということは話したじゃろう」
その事実は先ほど聞いたばかりだ。ゲシハー達の娘夫婦、彼女らの死んだ子どもの複製を行ったということを。そんな非人道的な魔法が行われたということを。
「……君たちが言いたいことはわかっておる。複製といった、命に対する冒涜的なことをして良いのか、ということじゃろう」
命は尊いもの、それが世間一般的な価値観だ。親から貰うたった一つの命は、やり直しは聞かないし取り返しがつかない。
もし命が複製できて、第二、第三の人生が簡単にやり直せるのであれば、人の生きる道というのは現代とはまた違ったものになるだろう。環境を変え、経験を変え、より自分が生きやすい未来を創る。しかし、それができないからこそかけがえのない命なのだと、ここにいる誰もが知っていた。命はたった一つであり、やり直しができないからこそ尊い物だと、皆が知っているのだ。それを否定する魔法など、それこそ非人道的なものでしかない。
「じゃが、それが起きてしまった。それを可能にできたのが、君たちの言う古代魔法なのじゃ」
ゲシハーはどこか悲しそうにそう言った。隣に立つサオエルも俯くばかりで、悲壮感を漂わせるばかりだった。




