EP9-22 - 一家の正体が語られる
「フィーの体のことだが、これについてはまだフィー自身にも話していない」
「?」
ゲシハーが言ったように、フィニティも自分自身の正体については知らないようだ。そういえば、過去に自分の記憶に残っていない夢を見たと言っていたことをエリーは思い出す。フィニティの祖父であるゲシハーと、栗色の髪をした知らない男が言い争っていたとのことだが……。
「先ほど話したようにフィーは……」
ゲシハーは言い淀んでいた。どうやら彼女の正体については、少々言いづらいことのようだ。
先ほど彼が言っていたのは、フィニティが人工の生命体であるということ。人工生命体、単語の響きからして明るい話題ではなさそうだ。
「フィーは普通の人間ではなく、魔法で作られた人工の生命体だ。それ故に、我々や君たちとは体の構造が異なっている部分がある」
「えっ。あたしってそうなの?」
「すまないな、フィー。隠すつもりはなかったのじゃ」
フィニティも驚いている……ようだが、衝撃は受けていないようだ。これまでの人生の半分以上を山奥で暮らしていた彼女は、恐らく自分が人工の生命体であるということをあまり理解できていないのだろう。
「待てよ。ということはお前達はフィニティの爺さん、婆さんじゃないのか?」
口を挟んだのはハジメだ。彼が問いかけた内容は尤もだろう。フィニティが人工の生命体と言うのであれば、血縁関係など存在しないはずだ。
もしかすると、フィニティがそう呼んでいるだけで、本当は彼らは家族関係にはないのかもしれない。
「……」
ハジメの質問にゲシハーは再び言い淀む。否定をしないが肯定もしない。そんな彼に代わって、話を続けたのは彼の妻であるサオエルだった。彼女は穏やかな口調でこの話題を語り継ぐ。
「この子はとある人物を基に作られたのよ。……それはわたし達の孫なの」
「……基にって」
なんだか嫌な予感がする。この話には深い闇が込められていそうだ。話を理解できていないフィニティを除いて、この場にいる誰もがそう思った。
「この子はね。わたし達の娘の夫が、自分の死んだ子どもを基に作った命なのよ」
「!」
予感は当たった。まさかフィニティが、死んだ人間を基に作られた命だったとは。
「フィニティ――ここにいるフィーではなく、死んだ子どもの方ね。彼女の情報を基に複製し、魔核を埋め込むことで動くことができる生命体。それがフィーの正体なのよ」
死んだ子どもの複製。そんなことができるのだろうか。いや、やって良いことなのだろうか。もしそれができるのであれば、生と死の境目が崩れることとなるのではないか――。
「……さて、そろそろワシらのことも話さないとならんじゃろうな」
フィニティについての話が終わり、次に口を開いたのはゲシハーだった。彼は蓄えた髭を撫で、こう言った。
「ワシらは時間を超えてこの時代へとやってきた。……君たちの言う、古代からのう」
次回より恐らくエピソード10、最終章に入ります。




