EP9-20 - フィニティの正体
「ふむ。少々傷ついているが、無事に機能しているようじゃのう」
赤色の欠片をジッと眺めたゲシハ―は、その欠片を妻のサオエルへと渡した。サオエルは渡された物に手を翳すと、小さな声で魔法を唱え始める。セン達は何が起きているのかをわからないまま、事態が進行するのを見ていた。
「ゲシハ―さん、一体何をしているのですか?」
「あぁこれか」
ゲシハ―は質問をしてきたセンの方へと顔を向ける。そしてちらりとサオエルの方を見て、彼の質問に答え始めた。
「あれはフィーの核でな。人工魔核と我々は読んでいるのじゃ」
「ジンコウ……マカク……?」
まったく聞き覚えのない単語に首を傾げるセン。スーンや医者の方にも視線を向けるが、どこか呆けたような表情を浮かべているところを見ると、彼らも知らない物のようだ。
「あれが無ければフィーは動くことができない。つまり、死んだも同然ということじゃ」
「どういうことですか。それではまるで、あの欠片がフィニティの命みたいではないですか」
「命……。その例えは正しいかもしれないな」
人間に核というものがあるだなんて聞いたことがなかった。人は臓器が動くことによって血液や魔力が体に循環し、生きている。そうして生きている者に対して、命という概念があると言えるのだ。命という物質があるという話は聞いたことがなかった。
「あぁそうか。君たちは知らないのだな」
これまでの質問を聞いたゲシハ―は、そもそもの前提となる知識を一同が有していないことに気が付いた。彼は動かなくなったフィニティの体を指差し、こう言った。
「フィーは普通の人間ではない。魔法によって生み出された人工生命体だ」
「……は?」
何を言っているんだ、とでも言いたげな顔をするセン。魔法で生物を生み出すという話も聞いたことがなかった。
確かに、魔法によって水や炎を生み出すことはできる。植物の成長を促して操ったり、温度を調整して自ら氷を生成したりすることもできる。しかし、一から生命を生み出すという魔法は存在しない。ましてや、意思のある者を生み出すことなんて……。
「理解できないことも無理はない。ワシらの時代でも問題視されていた魔法じゃ」
「貴方たちの時代というのは……」
「おっと、この話は話すと長くなりそうじゃからのう。サオエル、調子はどうじゃ」
「もう少しですよ。……ほら、これで元通り」
サオエルは手に握っていた欠片をゲシハ―へと手渡した。くすんだ色をしていたその欠片は、輝くような赤色へと変貌していた。元々宝石のような美しさではあったが、今の状態の欠片を見させられたら、間違いなく宝石だと誤認してしまいそうなものだった。




