EP9-16 - 過去と今の相違点
「ふぅ」
リーバが古文書の解読を済ませてから数十分後、ずっと本とにらめっこをしていたワイルが顔を上げた。先ほどのリーバと同様、どこか達成感を感じているような顔だった。
「そっちも終わったのかえ?」
「あぁ。恐らくな」
ワイルはリーバたちに見えるように古文書を開いて置き、その中の文章を皆に見せた。そこにはリーバがメモをとった単語の意味の他、現代魔法に直した際の単語などが書かれていた。
「いいか。例えばこの文章。リーバたちがとったメモには『ここ』『空間』『雪』『散らせる』と書いているだろう」
「ふむ」
「恐らくこれが以前フィニティが唱えていた雪を降らせるという魔法だろう。リーバ、お前なら覚えているはずだ」
「うむ、言われてみればそんな感じがするの」
以前フィニティが実技魔法研究会で実演して見せた魔法。その魔法の詠唱文は、確かこうだったはずだ。
『生成』。此の空間に雪花を舞い散らせ。散氷刃。
「それでだ。雪を降らせる魔法は現代魔法でも存在するだろう」
「そうなのか?」
「現代魔法での詠唱文はこうだ。白銀の結晶が降り注ぐ。氷塊よ舞い散れ」
ハジメの返答を無視しながら、ワイルはどこか得意げな様子でそう言った。どうやら授業では習わない魔法を知っていることを誇っているようだった。
「この現代魔法と古代魔法の詠唱文を見比べていくと、幾つか相違があるだろう?」
「回りくどいな。さっと教えてくれよ」
「……雪という名詞を直接使っているのが古代魔法、言い方を遠回しにしているのが現代魔法だ。その他にも空間を指定しているのが古代で、現代のほうは特に何も示していないだろう」
先ほどまでの鼻高々な様子から一変して、酷く呆れた表情で解説するワイル。彼らに知識を見せびらかしても何の意味もないということを理解したようだ。
「つまり、現代魔法は古代魔法と比較してかなり曖昧な詠唱文となっているということかの?」
「そうだ。あとは降り注ぐ、舞い散るなどの動詞さえ盛り込んでおけば、現代魔法に訳すことができるのではないかとボクは考える」
ワイルの主張は一理ありそうだ。彼の言うことに矛盾らしいものは見当たらない。疑問に感じられる点も、一同には見当たらなかった。
「そしてそのルールを基に考えた、現代魔法での封印を解く魔法というのがこれだ」
ワイルは最後にページを捲り、余白に書いた現代魔法の詠唱文を皆に見せる。それは教科書にも参考書にも載っていない、彼が考えたオリジナルの詠唱文だった。
『囚われし厄なる者を解き放て』




