EP9-7 - どこまで命は延びるのか
「……」
「……む。どうした、エリー」
エリーは少し考え事をしていた。父がフィニティへ魔力を分け与える魔法を見て、完治まではいかないものの、フィニティの体を治すための時間を確保できるのではないかと考えていたのだ。
そう、例えば先ほどの魔法を古代魔法研究会のメンバーが一人ずつ唱えていったとして、自分とリーバ、ハジメの三人分の魔力を補充することができるはずだ。センやシャータ、生徒会長にも協力してもらえば、合計六人分の魔力をフィニティに分け与えることができるはず。そうすれば、いくらフィニティが自分の体で魔力を生成できないとしても、日常生活くらいであれば送ることができるのではないだろうか。
「言っておくが、先ほどの魔法では目を覚ますどころか、彼女の命を助けることすらできないぞ」
「……そうなのですか?」
「分け与えることができる魔力は微々たるものだ。考えてもみろ、自分の魔力を全て分け与えたとしたら、自分の体に必要な魔力が無くなってしまうだろう」
「あ……」
魔力は目に見えないものだから忘れがちになるが、人が生きるのに必要不可欠なものだ。魔力がなくなると、一部の栄養素が体に上手く伝わらず、体を動かすことができなくなると言われている。
「それに、彼女自身が保有する魔力は凄まじく大きい。一般人が保有する魔力の一部を分け与えたところで、雀の涙程度の量にしかならないだろうよ」
確かに、フィニティが持つ魔力は人より膨大なものだった。それだけ彼女の体には魔力が蓄えられていたこととなり、生きるためにはそれ相応の魔力量が必要となるだろう。
「延命はできるかもしれないが、それでも一日、いや数時間程度のものだろうな」
「一日すら、難しいですか」
「あぁ。急ぎ根本的な解決方法を探すべきだろうな」
スーンがそう言った時だった。
フィニティの症状が一変したのは。
「――あぁぁぁぁぁぁっっ!」
今まで静かに眠っていた彼女は、カッと目を開くと同時に痛々しい叫び声をあげた。先ほどまで全く目を覚まさなかったことが嘘のように手足を暴れさせ、涙を浮かべながら絶叫をし続ける。
「な、なにが起きたんだ」
ずっとこの場に同席していた医者が困惑の声を出す。魔臓が損傷していることもあり、病状が悪化したとしても呼吸困難や衰弱といった症状が起きるはずだと考えていた。しかし、今の彼女は体に力が入った状態となっている。これは予想外の状況であった。
「フィニティ、どうしたの⁉」
エリーの呼びかけにフィニティは答えない。彼女は誰の声も届かないような精神状態で叫び、やがて動く力がなくなるまで暴れまわっていた。




