EP8-14 - その生い立ちは本物か
「フィニティちゃんの家族?」
購買部にやって来たシャータとハジメの二人はさっそくその場にいたおばさんへ話を聞いた。フィニティの家族について何か知らないか、昔のことを話していなかったかなどを。
「そうねえ。話は色々したような気がするけど、家族の話題はあったかねえ」
「何でもいいんだ」
「何かない?」
「うーん」
おばさんは腕を組み、唸り声をあげて昔のことを思い出そうとする。雑談の内容なんて、一々覚えていることの方が珍しいだろう。無理を頼んでいるのは重々承知だが、それでも何とかと、生徒二人はお願いした。
「そういえば」
するとおばさんは何かを思い出したようで、手をポンっと叩くと二人の方へと顔を向けた。
「おばあちゃんが作ってくれた料理のことを話してくれたことがあったねえ」
「それ、聞かせてくれる?」
「あれはサンドイッチをあげた時だったんだけどね。確かこう言っていたよ」
おばさんは一拍おいてからどことなくフィニティに声色を寄せてこう言った。
「こんなにおいしいものは食べたことがありません。ばっちゃん、野草ばっかり食べさせるんですよ……って」
「野草……」
フィニティが育ったのは山の中だ。野草ばかり食べることになったとしても仕方のないことだと思う。
「ヤクノシュ山に動物はいないのか?」
「いるみたいだよ。でも野生動物だからねえ。安定して食べられないんじゃないのかい」
「……」
確かに彼女はいつも美味しそうにものを食べている。初めてエリーと三人でご飯を食べた時も、小食のエリーがサンドイッチを一つ食べきる間に、フィニティの方はバスケットいっぱいのサンドイッチを食べきっていた。
そういえば、その時も似たようなことを言っていた気がする。こんなおいしいものは食べたことがない、と。
「それで、食のこと以外は何も話していないのか?」
「そうだねえ。大体おばさんの話を聞いてもらっていたからねえ」
「ほう。例えば?」
「太ってきたこととか、小じわが増えたこととか……」
「外見のことばかりだな」
「うるさいねえっ」
シャータは考える。これまでの内容を考慮すると、フィニティの家族は山の中で生活を完結させていたようだ。つまり街はおろか、本当に山から出ていない可能性がある。もしかしたら彼女の家族はずっと山の中で暮らしていたのかもしれない。
(あれ?)
そこでシャータは違和感を覚えた。彼女は一般的なことを知らなさすぎる。常識とかルールではなく、物や文明を知らないのだ。彼女が扱う古代魔法や先ほどの食事の話から考えると、想像以上に閉じられた空間で育ったと言えるはずだ。
しかし、何故その空間で彼女は育ったのだろう。まるで監禁のようではないか。フィニティの父母はヤクノシュ山に彼女を捨てたはずだが、本当にそれは彼女を捨てたのだろうか。もしかしたらもっと別の意思があるような、そんな気がした。




