EP8-11 - 今わかっていること
「さてエリーよ。幾つか話を聞かせてもらうぞ」
王都へ向かう馬車に乗り込んだスーンは、向かい側の椅子に座るエリーへ切れ長の目を向けた。睨みつけるようなその鋭い視線を浴びたエリーは、恐怖を感じて寒気を覚えるような感覚に襲われる。
「フィニティ・フレインの祖父母とやらについてだが、結局正体はわかったのか」
「い、いえ。わかったことといえば、彼らが王立図書館の司書と接触していたくらいで」
「あの爺と?」
「はい。二年前に一冊の本を渡してどこかへ行ったそうなんです」
王立図書館に現れたフィニティの祖父母、ゲシハー・フレインとサオエル・フレインは、その図書館の司書に一冊の本を渡すとすぐにその場を去ってしまったという。その後の行方については未だわかっておらず、だからこそこうして手分けして手がかりを探しているのだ。
「その本にはなんと書かれていたのだ」
「それが全て古代文字で書かれておりまして、私どもでは読み解くことができず。フィニティが音読をしていたのですが、その途中で……」
「黒いコートの人物に本を奪われた話なら先ほど聞いた。わたしは何が書かれていたのかを聞いている」
「は、はぁ。失礼いたしました」
結論を急かされ、エリーはフィニティが読み上げていた本の内容を思い出しながら語っていく。本の出だしが『遺書になるかもしれない』だったことや、やがて厄災が訪れるかもしれないということ、『逃げ込んだ時代』という何か深い意味がありそうな言葉が記載されていたことなどを。
たどたどしく本の内容を語っていくエリーの話を最後まで聞いたスーンは、窓の外をじっと見つめると自分自身に問いかけるように言葉を呟いた。
「古代魔法ならばありえなくもない、か?」
「……? あの、今なんて」
「荒唐無稽な考え事だ。で、それが今フィニティの祖父母に対してわかっていることの全てか」
「あ、は、はい。その通りです」
「謎しかない人物だな。本当に存在するのか?」
「そればっかりは……」
何とも言えない。今のところフィニティの祖父母に出会ったことがあるのは、孫である彼女と王立図書館の司書だけだ。第三者である司書が出会っていることもあり、実在しない人物ではあるとは思うが、それにしても目撃証言がなさすぎる。古代文字が読める人物なのであれば、もう少し情報があっても良いとは思うのだが。
「まぁ、いい。王都へ着いたら司書にも話を聞かせてもらうとしよう。エリー、お前は体を休めていろ」
「は、はぁ」
「何を呆けた顔をしている。せっかく早いうえに乗り心地の良い馬車を選んだんだ。移動ばかりで疲労も溜まっているだろう。早く寝ろ」
「ありがとうございます……?」
これは気を使われているのだろうか。普段と変わらない父の尊大な態度を前にして、少々疑問を覚えながら、エリーは彼の言うように眠りへつくのであった。
どんどんエピソードタイトルが適当になっている気がする……。




