EP8-6 - 残したものはどこに
「抜かった……。フィニティが古代文字しか読めなかったことを考慮したら、こうなることは読めていたじゃないか」
「どうするセンよ。このままでは手がかりゼロじゃぞ」
「わかってる。ちょっと時間をくれないか」
少なくとも今この場で古代文字を解読することは現実的でないだろう。ならば別の方法を考えなければ。
例えば幾つか本を持ち出して、然るべき機関に解読をしてもらうか。いや、今からでは時間が足りないし、どの本に何が書かれているのかもわからないのだ。この方法も現実的ではない。
では、ここに古代文字を読める人物を連れてくるか。……いや、そもそも古代文字を読める人物がフィニティしかいないのだから無理だ。それに、目的が変わっている。自分たちはフィニティの祖父母を探すためにこの家へやって来たのだ。古代文字が読めるかどうかは目的の本質ではない。
「他に手がかりがないか探そう。ここで暮らしていたんだ。本以外にも手がかりがあるはずだ」
「そうじゃの。ちょっと漁ってみるとするかの」
「漁るって言い方もどうかと思うが……」
そうしてセンとリーバの二人は小さな家の中にフィニティの祖父母の手がかりがないか、隅から隅まで探し始めた。しかし出てくるのは食器や文具などの生活用品ばかりだ。本のように手がかりになりそうなものはあまり見当たらなかった。せっかくここまでやって来たというのに、このままでは無駄足になってしまう。
何でもいい、何かないか。そう考えながら家の中を歩き、以前自分が利用させてもらった寝床に立った時、ふと思い出したことがあった。この家にあるはずのものがないのではないか。
「リーバ。紙を見ていないか?」
「は。どうしたのじゃ、いきなり」
「フィニティがここを出る時に書置きを残しているはずなんだ。祖父母がこの家に帰って来たときに自分の居場所を知らせるために」
そう。それはセンが提案したことだった。山から下りて学校にいるという書置きを残しておけば、仮に彼女の祖父母がこの家に帰って来た時、フィニティがいなくても心配を掛けずに済む。そんな意図を持ってテーブルの上に書置きを残していったはずなのだが、その紙が見当たらない。
「風で飛んだ、わけではなさそうじゃの」
「うん。この建物はあまり丈夫ではなさそうだけど、雨風は凌げるようになっている。ということは、だ」
考えられる可能性は一つ。フィニティがこの家を出た後、誰かがこの家へやってきてその書置きを持ち出したということだ。
それが誰かはわからないが、彼女の祖父母が書置きを見たのであればマージ・モンドへやってきているはず。まさか盗人、という線も考えたが、センとリーバがやって来た時に荒らされた形跡はなかった。
もしかすると、これもあの黒いコートの人物の仕業なのではないか。そう推理するセンであった。




