EP7-25 - 奪われた予言書
「……仕方ない、お答えしましょう」
黒いコートを羽織った人物は焦らすようにそう言った。フードを深く被っており表情は見えないものの、その口元には笑みが浮かんでいるように見えた。
「ですがその前に」
コートの人物は腕を振ると袖の部分から何かを取り出した。コートの色に隠れていてよくは見えないが、どうやら何か球状の道具のようだ。
その人物はその玉を頭上に掲げると、勢いよく地面に叩きつけた。すると大きな破裂音と共に煙が立ち込める。ものの数秒で、この場にいる全員の視界を奪ってしまった。
「煙玉だと⁉︎」
声に出したセンだけではなく、全員が油断していた。目の前にいた人物は魔法によって危害を加えてきたことはあったものの、道具を使ってきたことはエリーへ渡した薬以外になかった。もし何か攻撃してくることがあっても魔法だけを警戒していればいいと、無意識のうちに思い込んでしまっていたのだ。
「みんな気をつけろ! どこから仕掛けてくるかわからないぞ!」
「ご心配なさらず。ワタシの目的はただ一つですから」
コートの人物はこの煙の中で、まるで視界が見えているかのように歩いているようだ。コツコツという足音が響く中、なんとかフィニティだけでも守ろうとするセンであったが、足音は彼の後ろの方まで伸びていく。
やがて音が止まり、煙が晴れる。視界を取り戻した一同が周りを見渡すと、そのコートの人物は先ほどまでフィニティが立っていた場所にいた。
「えぇ、えぇ。これですとも。本当はそこの娘を傷つけるつもりはなかったんですがねぇ」
そう言う黒いコートの人物の手にはとある一冊の本が握られていた。フィニティの祖父が書いたと言う、災厄について記された本だ。
コートの人物はパラパラと中身を捲ると、何かわかったかのように頷いた。そして小さくボソボソと何かを呟くと、その人物の目の前に人一人入れるくらいの大きな魔法陣が現れる。一体何の魔法による魔法陣なのかは不明だが、この場から離れる手段であることは間違い無いだろう。センはフィニティを抱えながらコートの人物に向かって駆け出し、その腕を掴もうと手を伸ばす。
「待て!」
「嫌ですねぇ、待ちませんよ」
しかし、センの手は腕には届かず、虚空を掴んだ。魔法陣がひとりでに動き、コートの人物を包んだかと思うと、その人物は一瞬で姿を消してしまったのだ。まったく正体のわからない魔法であるが、逃げられたと言うことだけはわかってしまった。
正月休みが今日で終わるだなんて……嘘だ……




