EP7-22 - 本が呼ぶ手掛かり
「これが先ほど話した本ですぞ」
司書は一度席を外すと図書館内にあるという自室へと向かい、一冊の本を持ってマージ・モンドの生徒達への下へ戻ってきた。金色の豪華なカバーに包まれたその分厚い本の表紙には何も書かれておらず、一見して何の本かはわからないようになっていた。
「中身は見たんですか?」
「はい。ですが何が書かれているかさっぱりわからずでして」
「見せてくださいっ。……おっと」
フィニティは司書から本を受け取ると、その重量に少々驚いた様子を見せた後にゆっくりとページをめくり始める。そこには古代文字によく似た文字で綴られた文章が記載されていた。
「何だこの文字は」
「ワシらにはさっぱりじゃのー。どうじゃ、わかるかフィニティ」
「……」
フィニティはじっくりとページを読み込むと、書かれている文字に指を当てながら小さな口を動かし始めた。
「……これはいつかの時のための保険。見つけてくれるのが我が愛しの孫、フィニティであることを祈る」
どうやら記されている文章を読み上げているようだ。そのまま彼女は一ページ目に書かれている文章を声に出し続ける。
「もしかしたら事態は最悪なことになるかもしれない。この本自体が、ワシらの遺書になるかもしれない」
「!」
フィニティが口に出した言葉を聞いて、その場にいる全ての人物が驚愕の表情を浮かべる。動揺していないのは、『遺書』という言葉の意味を理解していないフィニティだけだ。そのまま読み進めようとする彼女の手を止め、エリーは奪い取るように本を彼女から取り上げる。唐突に行われたその行動に、フィニティは遅れて驚きの表情を作った。
「ちょっと、エリーさん⁉」
「ごめんフィニティ、一旦私たちにも読ませて!」
もしかしたらこの本にはフィニティにとってショッキングなことが書かれているかもしれない。彼女が本の内容を理解していないうちに一度内容を確認すべきと考えて本を取り上げたエリーだったが、文字が読めない以上、無駄な行動だったと言わざるを得なかった。
「……リーバ、読める?」
「さっぱりじゃ。生徒会長殿、どうじゃ」
「無理だねぇ。ハジメくん、どうだい?」
「幽霊部員の俺が読めるわけないだろ。センならいけるか?」
「すまない。古代魔法は専門外なんだ……」
司書は中身がわからなかったと言っていた。元山賊である警備員もさっぱりだという顔をしている。結局、この本の内容がわかるのはフィニティだけなのだ。エリーは取り上げた本を大人しくフィニティへと渡し、続きを読むようお願いした。
「ところでフィニティ。これは古代文字じゃないのか?」
そんな中、ふとハジメは思った疑問をフィニティへと問いかける。その質問に対し、彼女は本から目も動かさずにさらっとした様子で答える。
「あぁ、古代文字ですよ。じっちゃんの癖が強いだけです」
「癖じゃと……?」
「じっちゃん、意識してないとすごい読みにくい字書きますからね。それでよくばっちゃんに怒られてました。こんなの読めないって」
ただの癖のせいでここまで読みにくくなるものなのか、と唯一古代文字に対して理解のあるリーバは思っていた。もしかしたら世の中の解読不明な古文書などは記述者の文字の汚さによって起きているのではないかと考えると、言語化できないやるせなさを感じるリーバであった。
クリスマスはイブも当日も残業です。




