EP7-18 - これだから人の縁というものは面白い
「あなたは……」
唐突に表れたその中年男性の顔に見覚えがあるのは、一同の中では一人だけだった。それはつい最近まで彼と話していた生徒会長だ。
「元山賊で元騎士団員のおじさんではありませんか」
「おう。帰り道で見知った制服の一行が見えたんでな。ちょっと気になったわけだ」
「ほー。ワシらのストーカーではないのかのー?」
「馬鹿言うな。俺は男と品がないことが嫌いだって言っただろう」
ワシは聞いとらんぞ、と軽口を言うリーバを横目に、生徒会長は男と話をしようと彼に向って一歩前に出る。
「実は貴方が言うように我々は困っていまして。今からここの図書館の司書様に会う方法を知りませんか?」
「司書様だぁ?」
話をしながら生徒会長が指した指の先には閉館した王立図書館がある。この街の住人である元山賊の男なら何かを知っているかと思い質問した生徒会長だったが、やはり一市民にはわからないことなのだろうか。元山賊の男は答える代わりに、手に握っていた水の入った瓶をあおる。
「……すみません。やっぱりわからないことですよね」
「いや、その程度のことなら任せてくれ」
「そうですか。……え?」
「何だよ。この世の終わりみたいな顔をしている男がいたから何かと思ったら、その位ならすぐ解決できるぜ」
水を飲み終えて一息吐いた中年は、思ったよりも小さな問題を前にして余裕の笑みを浮かべた。空になった瓶を雑に投げ捨てると、彼は胸元のポケットをこれまた雑にゴソゴソと漁り、銀色に光る小さな何かを握りしめた。暗い中、生徒会長が目を懲らしめてその道具を見ると、その正体は何かの鍵のようだった。
「そこの図書館の鍵だ。この時間なら、あの爺さんはまだ図書館にいるだろうよ」
「待てよ。なんでおっさんが王立図書館の鍵を持ってんだ?」
「なんでって、俺はそこの図書館の警備員なんだよ」
今日は別の奴らが担当だったから昼間から酒を飲んでいたけどな。そう言うと男は図書館の入口まで向かい、閉館と書いてある看板を除け、小さな鍵穴に鍵を突っ込む。暗い中でも全く動じず、淡々と行うその姿を見る限り、どうやら彼の言葉に嘘偽りはないようだ。
「……ははっ」
まったく驚いた。まさか全く別の意図で近づいた人物が、こんなところで助けてくれるなんて。これだから人の縁というものは面白い。
「開いたぞ。……兄ちゃん、何ニヤニヤしてんだ?」
「いえ。気にしないでください」
「なんだ気色悪いな。ほら、行くぞ」
元山賊の男は扉を開けると、入口に備えられていた小型の魔法機器……懐中魔法灯を手に取り灯りを照らすと、一同に中へ入るよう促した。
作中ではフィクションだからやってますが、ポイ捨てはダメですよ!




