EP7-17 - そこにあったルール
「嘘だろ……」
ひと悶着がありつつも、何とか休息を取り終えた古代魔法研究会一同は、目的地である王立図書館へと向かうために酒場を発った。
そうして歩くこと約三十分。星空が見守る中、ようやく彼女らは図書館の入口までたどり着く。しかし彼らを待ち受けていたのは、人ではなく一つの看板だった。閉館、の二文字が無慈悲に書かれている看板だ。
「まさか閉じているとは思わなかったねぇ」
「酒場で時間を使いすぎたせいか?」
「間違いなくそれが原因じゃろうな」
「冷静に言っている場合……?」
唖然としている教師を横目に、生徒たちは仕方がないとでも言いたげな表情を浮かべながら駄弁っていた。しかし、彼らのように仕方がないと流すわけにはいかない。本日わざわざ時間をかけてやって来たのは、この王立図書館の司書に会うためだ。今回の旅でその司書に会うことができなかったとなれば、また日を改めて王都までやってこなければならない。そうなると時間だけではなく、莫大なお金もかかってしまう。
「ぬかった……。やはり先に用事を片づけておくべきだった……」
生徒達と比べて、人一倍悔しそうにセンはわなわなと身を震わせていた。お金を払う立場にある彼にとって、この失態はとても大きいものであった。
「えっと、へーかんってことは入れないんですよね。どうしましょうか?」
「どうするって言ったって、引き返すしかないんじゃない」
「……そうする、しかないか」
明日も図書館は開いている。明日、司書に会うことができれば、フィニティの祖父母についての話を聞くことができるかもしれない。センがそう思考を切り替えることができないのは、帰りの時間を気にしてのことだった。王都からマージ・モンドまでは約半日ほどかかる。更に、図書館から王都の入口までは約一時間ほどかかるのだ。開館してすぐに話を聞き、学校へと帰ったとしても、マージ・モンドにたどり着くのは日を跨いでからとなるだろう。センもフィニティ達も、疲労を抱えて授業を受けることは可能な限り避けたいところだった。
しかし、ルールを守れなかったのはセンたちだ。閉館の時間が記載されている以上、その時間内にここへ来なければ相手にはしてもらえない。当たり前のことだ。ルールを守れないのであれば、その分だけリスクを負わなければならない。センは諦めて今日のところは引き返し、将来の疲労と引き換えに、明日改めて司書へ会いに行こうとした。
「どうしたんだよ兄さんたち。随分と困った顔をして」
そんな意気消沈とする彼らに、声をかける中年男性が一人。
センが顔を上げると、その声の主はニコリと笑った。




