EP7-8 - そんな彼の好きな物は
「……で、結局どういうつもりなのじゃ?」
何故か今回の王都へと向かう旅路についてくることになった生徒会長。彼が座る席は、元々一人で馬車に乗り込むはずだったリーバの向かい側となった。
「どういうつもりとはどういうことかな?」
「言葉通りの意味じゃ。そもそもどーしてワシらが王都へ向かうことを知っておる?」
「オレは生徒会長だからねぇ。生徒のことには詳しいのさ」
「だーかーらー、理由になっておらんと言ってるじゃろうが」
普段は人を呆れさせる側のリーバだが、今回に限っては呆れる側へと回っていた。それもこれも、目の前にいる幼馴染の男が彼女にとって相性が悪いせいだった。
昔からそうだった、とリーバは思う。彼は自分以上に掴みどころがなく、会話をしても感情が全く見えてこない。そこに彼が持っている心があるはずなのに、幾重にも重ねられた仮面のせいで全く持ってその心が見えない。そう言った感触をリーバは昔から感じていた。
しかし、始まりはどうだっただろうか。リーバが彼と出会ったのはまだ年齢が一桁だった頃だ。出会った時からそのような仮面を被った人物だったら、いくら変わり者であるリーバであってもそれ以上関わろうとしないだろう。気が付いたら彼はこのような人物になっていたが、その前に彼女は生徒会長の本心に触れたことがあったような、微かな思い出もあるような気がした。
「どうしたんだい。歯の間に食べ物でも挟まったような顔をしているけど」
「さての。今朝食べたネギの繊維でも詰まっているようじゃのー」
「あぁ、ミソ・スープのことかな。あれはオレも気に入っているよ。そういえば最近東洋の国から様々なレシピと食材がこの国に渡って来たらしいが、オレのお気に入りは……」
「なんじゃ、トーフでも好んでいるのかえ。あのゼリーの味、ワシはあまり好みではないの」
「いや、ナットーだ。君は食べたことがあるかな?」
「……お主正気か?」
予想外の食べ物を好んでいるという彼の話を聞き、思わずリーバは前のめりになった。
「あの腐った豆のどこが食べ物と言えるのじゃ」
「それは偏見だよ。君も食べてみればあの食材の美味しさがわかるはずさ。それに、栄養も満点らしい」
「何が栄養満点じゃ。腐ったものに栄養があろうと腹を壊すだけではないか」
「それを言ったらチーズはどうなるんだい。あれだって言うなればカビの生えた食材だろう」
「カビくらいなんじゃ。ワシはカビが生えたパンを食べたことだってあるが、腹なんて壊さなかったぞ」
「それを言うならオレもナットーを良く食べるけど、お腹を壊したことはないよ」
「それはお主が鈍感じゃからであろう。ワシみたいな繊細かつガラスの心の持ち主であれば絶対に腹を壊していたはずじゃ」
「それを言うならオレだってガラスの――」
先ほどまで考えていた昔の思い出はどこへやら。
気が付くと彼らは食べ物の話で半日ほど言い争い、王都へ着いた頃、二人はへとへとな状態となってしまっていた。




